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最後の大舞台
1部分:第一章
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は姿勢を正して彼に挨拶した。
「ピッチャークビだ」
「えっ!?」
 山本はその言葉に思わず目が点になった。
「御前は見たところバッティングのセンスの方がええ。それに肩も脚も悪くないしな」
「はあ」
 彼はまだ自分が何を言われているかよくわからなかった。
「だから外野になれ。ええな」
「はい」
 仰木はそれだけ言うとスタスタとその場を去った。こうして彼は外野手となった。
 外野にはなったが彼の出番はあまりなかった。それでも彼はオフに土木作業のアルバイトをしながら働いた。
「身体も鍛えられるし金ももらえる。丁度ええわ」
 そう言いながら明るく野球をしていた。例え出番がなくとも懸命に野球に取り組んでいた。
 男前でもなくプレーも華麗ではなかった。だから人気もなかった。
「それでもええよ」
 彼は言った。サインを頼みに来るファンには誠実に接した。特に子供には優しかった。
「あいつは物凄いええ奴やな」
 チームメイトはそんな彼を見てこう言った。そんな彼がオープン戦遂にチャンスを与えられた。主砲マニエルの後の五番を任されたのだ。
 だが凡打ばかりであった。そして最後には代打を出された。これで彼のチャンスはなくなった。
 当時の近鉄には平野光泰、栗橋茂、佐々木恭介、島本講平と多くの人材がいた。左では栗橋がいたが彼はスラッガーでありそうそう簡単にはレギュラーのポジションは得られなかった。こうして彼は代打に回された。

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