決戦1
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レス・マクワイルドが指示を出す。
叫ぶわけでも、怒鳴るわけでもない。
ただ淡々と出される指示に、兵士達は動作で答えていく。
動作を終了すれば別の指示。
一時間という長い時間にも関わらず、それは機械的に、的確に。
索敵時の偶発的な戦闘を除けば、初めてというのに落ち着いている。
だからこそ、周囲の兵士達も落ち着いて行動ができるのだろうが。
なぜ負ける戦いに挑もうとするのか。
熱くなった銃身を雪で冷ましながら、カッセルは指揮官の言葉を思い出す。
おそらくは誰にも言わず――初めてカッセルに呟いた愚痴だ。
士官学校出のエリートが果たしてどこまで現状を分析できているか。
上が聞けば敗戦主義者だと決めつけそうな危険な一言。
それでもなお彼は戦おうとしている。
理由すらも分からずに。
つい長く指揮官を見つめていれば、視線に気付いてアレスが顔を向けた。
そこに諦めの様子は一切ない。
「どうしました、軍曹」
「いえ。上手くいきそうですな、少尉」
唇を引き上げて笑みを作る動作に、アレスは戦場に視線を走らせて首を振った。
「どうでしょう。まだ始まったばかりです。油断はできない」
「だが、敵はこちらばかりを攻撃しています。嬉しくはないですがねっ」
雪を踏みしめる音に、カッセルが塹壕から顔を出して引き金を引く。
狙いさえ定めることもなく、放たれた弾丸が近づく歩兵を薙ぎ払う。
おそらくは敵も攻略を考え始めたのだろう。
少しずつであるが、近づいている。
だが、それこそが。
「敵はこちらに釘付けのようですね。予定通り」
呟いて、カッセルは笑みを浮かべた。
+ + +
「中央に塹壕を掘り、前線基地を作ります。おとりですが」
アレスの言葉に、レティルを初めとして誰もが大きく目を開いた。
当初考えられていた入口の施設を完全に放棄し、広場のスペースに防御基地を作る。
驚きはしたが、理解できたことだった。
だが、それをおとりと言い切る言葉に、その意図を尋ねる視線がアレスに向かう。
「こちらの目的は基地の防御であり、敵を撃退する事ではありません」
「同じことではないのかね」
「違います。こちらは味方からの援護が到着するまで待てばいい――いわば、時間を稼げばいいのであって、敵を撃退する必要はない」
「それとおとりとすることとどのようなつながりがある?」
「敵は入口前方に基地があれば、まずその攻略を目指すでしょう。だから」
呟いて、アレスは机上に置かれた地図を示した。
広場中央の塹壕。
「前線基地は特務小隊と他の小隊の隊員の一部だけ配置し、大多数の隊員は左右の塹壕から中央に押し寄せる部隊に対して攻撃を行います」
「しかし、そ
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