7『シルバーフラグス』
[1/4]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「お願いだよ……あたしを一人にしないでよ、ピナ……」
その表情は、あまりにも現実世界で最も近かった人に似ていた。
***
2024年2月。SAOが開始されてから、一年と少しが経過した。最前線は五十二層。ヘルメスはホームであるアインクラッド第二十七層のねぐらから、主街区へと繰り出す。
「よう、錬金術の」
「……イゾルト」
第五十二層主街区の転移門から出ると、そこには一人の男性プレイヤーが立っていた。黄色を基調としたシャツの上に、銀色のライトアーマーを装着した槍使い。彼の名はイゾルト。SAOで、ヘルメスのことを知るプレイヤーの中では彼のことを《詐欺師》と呼ばない数少ない人物である。実力は攻略組に匹敵するのに、なかなか最前線に出てこない、ヘルメスの同類のような男だ。
あの日――――第一層の攻略が終わった日、ヘルメスは自らがSAOの真実を知る茅場晶彦の《共犯者》であるとした。実際の所、そこまで詳しくSAOのことを教えられていたわけではないのだが、βテスターやほかのプレイヤーを排除しようとする動きを止めることだけはできたはずだ。その後もしばらくは《詐欺師》ヘルメスの名が広まっていたのだが、現在のSAOではヘルメスのことを知らないプレイヤーも多くなった。
だが、攻略組や前線プレイヤーの多くは、いまだヘルメスを《詐欺師》と呼んで嫌っている節がある。それに関して何か不満があるかといえばそうでもないのだが、自分をその名前で呼ばないプレイヤーと話すときは何かすっきりとした気分になる気がする。
「どうしたんだ、最前線なんかに出てきて。お前はいつも下層でゴロゴロしてるだけじゃないか」
「失礼なこと言うなよ。……いや、何。俺もあいつが心配になってな……」
ああ、と呟いて、イゾルトと共に転移門の脇を見る。
そこに跪いていたのは、一人の男性プレイヤーだった。年齢は二十代半ばほどか。地味な顔立ちに、地味な服装。御世辞にも高級とは言えない装備だ。彼は泣きながら、お願いだ、お願いだ、と何度も何度も繰り返していた。
「もう二日になるのか……」
「ああ……アイツらには俺も世話になったことがあってな……何とかしてやりたいんだが……」
転移門のそばで泣き叫んでいる男性プレイヤーは、中層で活動している《シルバーフラグス》と言うギルドのギルドマスターだ。いや、「活動していた」「ギルドマスターだった」という表現が正しいか。なぜならば、彼の率いるギルドはもうないのだから。
二日前のことだった。彼の率いるギルドに、「体験入団させてほしい」と言ってきたプレイヤーがいた。一週間ほどそのプレイヤーと狩やらをして過ごした、ある日。三十八層のダンジョンを攻略中に、疲労して休んでいた《シルバーフラグス
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ