第三章
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第三章
「あれか」
「あれ来て一緒に。イタリアで」
「悪いが御前一人で行け」
しかし野村はその誘いには乗らなかった。
「御前一人でな。夢を掴むんや」
「僕一人でですか」
「わしはここに残る」
阪神、そして日本に残るというのだった。
「ここで御前を見とくからな。頑張って来いや」
「ええ。じゃあまた」
「二度と返って来るなや」
最後には憎まれ口で返すのはいつものことだった。こうして野村は新庄を見送り新庄はやはりいつもの笑顔でアメリカに向かう。この時自分の父親にこう言われた。
「頑張れよ」
「わかってるよ」
最初は普通のやり取りだった。
「ナポレオンより有名になれよ」
「ナポレオン!?」
しかしここでいつもの新庄になるのだった。
「ナポレオンって誰!?」
「おい、まさかこいつ」
「知らんのちゃうか!?ナポレオン」
後ろで聞いていた皆はまた顔を見合わせて囁き合うのだった。
「ひょっとせんでも」
「そやろか」
「ルイ=ヴィトンより有名なの?」
そしてこう言う新庄であった。
「その人って」
「やっぱりこれかい」
「知らんかったんか」
皆の予想は見事当たったのであった。
「まあそうやろと思ったけれどな」
「ほんまにこいつは」
「まあそれはいいとしてさ」
自分で勝手に話を終わらせてしまう。
「アメリカでの僕の活躍期待しておいてね」
「ええ、それはまあ」
「期待していますんで」
「さあ、何しようかな」
もう早速アメリカで何をするかのことをイメージトレーニングしていた。野村に妄想と言われたそのトレーニングだ。やはり行っていたのだ。
「アメリカでステーキ食べて牛乳飲んで」
「それ日本でもあらへんか?」
「なあ」
皆今の言葉にもまた言う。
「普通にな」
「あるやろ」
「まあな。こいつはな」
「何をしてもおかしないしな」
何だかんだ言って彼等も心情が好きだった。そうしてアメリカに行き大リーガーとなった新庄は初出場でいきなり騒ぎを起こしたのである。
何と二塁の代走でセンターフライでいきなりタッチアップだ。日本人はそれを見て唖然とした。
「またやりおったわ」
「変なことしよるわ」
「アホは死んでもなおらん」
その中で日本にいる野村は言った。
「ああいうことする奴や思うてた。予想通りや」
「予想通りですか」
「何がユニホームが格好ええや」
新庄がメッツに入って第一の言葉である。
「そういう問題やあらへんやろ」
「まあそうなんですけれどね」
「日本人やないって言うてましたし」
「少なくとも日本人やない」
何故かここでは新庄の言葉を肯定する野村であった。
「あれは宇宙人や」
「宇宙人なんですか」
「何を考えてるかわからん」
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