暁 〜小説投稿サイト〜
魔導兵 人間編
誓い
[8/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初
にーしゃま……」

 恐ろしい計画が立てられていることも知らず、霧島家は今日も平和だった。兄の膝で幸せそうに眠る桜子とその傍で静かに縫い物をする女中。家族団らんのひと時は何にも代え難い。働き初めて、より一層わかる。何のために働くのか。それは人それぞれだが、大抵の者は家族のために、その身を粉にして働くのだろうと。

「あの女……失礼、雪子様の教育はいかがでしょうか?」
「う〜ん……これからだね。でも間違いなく『原石』だよ」
「それは、磨けば光る、という例えでよろしいのでしょうか?」
「うん。だけど、どう磨くかによって石ころにもなったり金剛石にもなったりする」
「驚きました。まさか光の魔術をお教えするなんて」
「流石に、霧は、ね。おか、霧音様に怒られちゃうよ」
「左霧様……」

 自分が他家の者を弟子したと聞けば、あの人はどう思うだろうか。いや、おそらく耳に届いているかもしれない。だとすれば音沙汰ないのが不思議だ。いや、当然か。家出同然に家を飛び出し、連絡も寄越さない親不孝者など。厳格なあの人が切り捨てないはずがない。元々情など持ち合わせていないのだろう。左霧はあの人が恐ろしい。あの眼、あの存在そのものが。まるで年を取ることを知らない容姿。思い出しただけでも震え上がりそうになる。
 それと同時に、左霧は精一杯反発したくなる。全ての事柄に意味があるとすれば自分はなぜ存在し、あの人もまた、なぜ自分という存在を作ったのか。まるで謎だらけだ。
 精一杯の反抗。この成れの果てが家出。どうせ自分は消える運命だ。なら、一生のうちに好きなことをやろう。そう思いついたのが逃亡。あの時のあの人の驚いた顔が今でも忘れられない。いたずらをやらかした子供のようなに心が踊った。同時に深い罪悪感にも苛まれた。

「いずれ、本家から正式に連絡が来るかもしれない」
「その時は、この華恋も一緒に裁きを受ける次第でございます」
「クスッ大げさだなぁ」

 妹を連れて逃げたのは、ただあの人が大事に育てたものを奪ってやりたかっただけ。最初はそうだった。
 ……言ってしまえば、最初は妹が憎かった。明らかな差別があった。愛される妹。憎悪の対象である自分。外で遊び呆ける妹。一室に幽閉され日が暮れるまで勉学に励む自分。
 なぜここまで扱いが違うか。当然聞いたことがある。

「あなたが鬼子だからです」

 あの人はいつものしかめ面で答えた。思えばあの人はいつも一緒だった。どんな時も、自分を貶し、貶め、蔑んだ。褒められたことなど一度もない。あるのは灰色の日々。屈折した愛憎模様。いや、愛されたことなどなかったか。
 あの人は、いつか自分を殺すのだと言った。決定的な決別を決めたのはこの日。全てを切り捨てて唯一信頼出来る者と逃亡を決めた日。

「にーたま、どこへ行
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ