第二章
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第二章
「それじゃあ今度どうです?ステーキでも」
「そやな。ティーボーンがええな」
「そうですか。じゃあまた今度」
「今度な」
噂では一茂を嫌い邪険にしていると言われていた野村だがまんざらではないといった様子だった。顔は一見して憮然としているがはにかんでいるのがわかる。口も悪いが悪意のあるものではない。実は野村という男はこうした照れ屋なのである。一茂もそれを知っているのだ。
「とにかくや」
彼との話の後で新庄に顔を戻して話を再開する。
「御前にとっての頭を使うことはそれか」
「駄目ですか?」
「どうやら御前には言うてもあかんな」
突き放した言葉だった。
「勝手にせい」
「どうも」
そして新庄も平気な顔だ。
「何やったらピッチャーもやらしたるからな。肩は作っておくんやな」
「ああ、それは大丈夫ですよ」
これまた明るい返事だった。
「僕一球で肩できますから」
「そんな簡単に肩できるわけないやろが」
「大丈夫ですって」
やはりこんな調子だった。阪神は野村をもってしても暗黒時代をひた走っていたがそんな中で新庄はまたとんでもない行動に出るのだった。
「僕大リーガーになりますから」
「また言い出したよ」
「今度はこれか」
何処にこんな根拠があるのかわからない底抜けに明るいいつもの笑顔でいきなり言い出したのである。皆またしてもという感じだった。
「引退するとか言って」
「今度はそれか」
呆れた顔で言う皆だった。マスコミだけではなかった。
「で、大リーガーか」
「本気かね」
「ニューヨークメッツに入りますよ」
おまけにこんなことまで宣言しだした。もうチームまでであった。
「ボビーと一緒に楽しく野球やりますから」
ボビー=バレンタインのことだ。既に日本でもロッテで監督をしたことがありその絶妙な采配が大人気となっていた。ボビーとはその彼の愛称である。
「そういうことで。アメリカの首都でね」
「ああ、新庄さん」
「それ違いますから」
皆新庄の今の言葉にはすぐに突っ込みを入れた。
「ニューヨークはアメリカの首都じゃないですよ」
「首都だった時期もありましたけれど」
「あれっ、そうだったんだ」
それを指摘されても特に恥ずかしがったりするところはなかった。
「首都じゃなかったんだ」
「そうですよ。アメリカの首都はワシントンですよ」
「ふうん、そうだったんだ」
「まあとにかくですね」
皆新庄のこうしたところはわかっていたからまずはそれは置いておいてそのうえでまた彼に対して話すのだった。彼等も手馴れたものであった。
「本当に大リーガーになるんですか」
「うん、ニューヨーカーになりますから」
やはり無意味なまでに明るい。
「期待しておいて下さい」
「大丈夫
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