第九章
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下さい!」
それで最後だった。西本は笑顔で球場をあとにした。
「カーテンコールはいらんで」
そしてこう言った。二つの弱小チームを優勝させた男のユニフォームでの最後の言葉であった。
あれからもうかなりの年月が経った。西宮球場も日生球場もない。藤井寺で公式の試合が行われることもない。阪急はオリックスに身売りされた。そしてユニフォームも変わり本拠地もYAHOOBBスタジアムと大阪ドームにそれぞれ移った。あの泥臭い球場へ足を運ぶことは少なくとも試合ではないのだ。
「あの時の古臭い球場はもう覚えとらんやろな、御前は」
居酒屋を出た時大叔父は僕にこう言った。
「まあ子供の頃やしね」
僕は答えた。本当に殆ど覚えていない。随分汚い球場だったのは覚えているが。
「そやけど西本さんと選手のことは覚えとるやろ」
「ああ」
その言葉に対して僕は頷いた。
「忘れられるもんやあらへんわ」
「そやろ、御前を球場に連れて行ったかいがあったわ」
大叔父はにこりと笑ってそう言った。
「近鉄と阪急、二つのチームはべっこやけどな」
彼はよくオリックスをこう言う。あえて間違えているふしがある。
「両方に西本さんの心がこもっとるんや」
「両方にやな」
「そうや」
僕の言葉に対し頷いた。
「別々のチームやけれど両方にその心が残っとる、こんなことは他にあらへん、西本さんだけができたんや」
「そやな。長嶋でも巨人だけやった」
「あれは監督としては完全なヘボや」
とかく巨人が嫌いな大叔父である。
「あんなことしてても優勝できん。お笑いでしかないわい。あんなんは野球やない、銭のゲームや」
「銭のゲームか」
「そうや、選手を育てて勝つ、それが野球なんや。それを忘れたら野球やない」
僕が物心ついてから今までいつもこう言われてきた。そして僕は野球を観てきた。
「まあ巨人のことは今はええ。あんな下らんチームのことは考えただけで頭が悪くなるわ」
そして話を戻した。
「近鉄と阪急はな」
そして言った。
「両方共西本さんとその弟子のチームや。しかしな」
言葉を続けた。
「同じではないんや。阪急は阪急、近鉄は近鉄や」
「全然違うんやな」
「そうや、聞くがわしと御前の爺さんは違うやろ。それと同じや」
大叔父は僕の祖父の弟にあたる。歳はかなり離れている。
「兄弟でも他人なんや。絶対に一緒にはなれん」
「他人か」
「そうや。言い換えたらライバルや。同門のな。そやから絶対に一緒にはなれん。競い合うことはできても。それだけはよう覚えとくんや」
「ああ」
「わかったらええ」
大叔父は僕が頷いたのを見て満足気に微笑んだ。
「じゃあ帰ろうか。明日も試合がある」
「えっ、明日も観るんか!?」
「当たり前じゃ、明日は仰木さ
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