第六章
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・・・・」
それを聞いて皆驚いた。
「人間努力をしていれば何時か絶対に報われる、わしはそれを証明したいんや」
そうであった。阪急もそうであった。あの弱小球団を西本はそうやって強くしたのであった。
だがそれは上手くはいかない。しかもドラフトで折角引いた山口高志の交渉権を放棄するというミスを犯した。これで山口は阪急に入る。そして彼の前にプレーオフで敗れ去った。
だが西本は諦めない。それでも選手達を育てようと躍起になる。トレードで若手中心のチームにしていく。その中でまとめ役になったのが小川亨であった。
地味な顔立ちの男である。顔が田舎者だからという理由で『モーやん』と仇名される程であった。だが真面目で守備も打撃も堅実であった。特に三振が異常に少なかった。
西本はまず小川を怒った。それでナインの気を引き締める為だ。そして地道な練習が続いた。
羽田や梨田、小川だけではない。栗橋茂や佐々木恭介といった者達にも黙々とトスバッティングをしバットを振らせた。自らバットを握りボールを投げた。こうして選手達と共に汗を流し泥にまみれた。
まずはブルドーザーで荒地を整備する。阪急の時はそれで落ちたのは放っておけばよかった」
西本はある時こう言った。サーキット=トレーニングも取り入れた。そしてそれを押し付け、監視する。徹底したスパルタであった。
「そやが近鉄は違う。落ちた小石も一つ一つ拾っていかなあかん」
だからその成長は遅かった。西本はいつものように拳骨を飛ばした。
栗橋も梨田もよく殴られた。梨田の後ろには監督の蹴りの後がついているとまで言われていた。
それでも強くならない。鈴木とは正面から衝突した。
「あっちの若い奴を見習わんかい!」
オープン戦での阪神戦、打ち込まれた鈴木に対してこう言った。その若手とは当時売り出し中の山本和行であった。実績で言えば鈴木とは比べものにならなかった。
これに鈴木は頭にきた。そしてフロントにトレードを直訴した。
だがフロントはそんな彼を説得した。鈴木は怒りに身体を震わせながらも近鉄に残った。
西本はそんな鈴木に対し技巧派に転身するよう勧めた。鈴木は速球派であったがこの時には自慢の速球は既に翳りが見られていたのだ。
鈴木は変化球を覚えた。これまでカーブとフォークだけだったがそこにスライダーとシュートを覚えた。左右の揺さぶりを身に着けたのだ。
これで鈴木は復活した。その時彼は知った。監督が彼を怒ったのは彼の為を本当に思ってのことだったのだと。
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