第三章
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第三章
「やられたな」
そう思ったのは相手のピッチャー達だった。やけにスペンサーにホームランを打たれると思っていた。それにはこういう理由があったのだ。
スペンサーだけではなかった。そもそも西本の真骨頂は選手育成にある。当時の阪急はガソリンタンクと呼ばれた後に三五〇勝をあげる米田哲也と変則派の梶本隆夫という左右の柱を擁する投手中心のチームであった。だが西本はそれに満足しなかった。
「確かにピッチャーは大事や」
彼は言った。
「けれどそれだけで勝てる程野球は甘くはないんや」
彼は総合力を求めていたのである。
だが阪急は巨人のように人気があるわけではない。資金もだ。従ってドラフトまでは有望な選手もそうそう入ってはこない。ではどうするか。育てるしかない。
有望な若手が入ってきていた。小兵ながら足の速い阪本敏三に技のある大熊忠義、パンチ力のある高井保弘。彼等が次第に成長してきたのだ。そしてドラフトがはじまると阪急の柱となるべき男が入ってきた。
長池徳二。法政大学においてスラッガーとして活躍した男である。西本は彼をドラフト一位で指名したのだ。
「あいつは凄いバッターになるで」
西本はとりわけ打撃指導には定評があった。打撃コーチをやっていたこともある。その彼が長池につきっきりで指導を開始したのだ。
だが長池を教えたのは一人ではなかった。もう一人いたのである。
ヘッドコーチであった青田昇。巨人においてジャジャ馬と呼ばれ大暴れした彼も長池の素質を見抜き指導したのだ。これに参ったのは長池であった。確かに二人共その指導はいい。だが二人の指導を同時に受けることはできない。
「すいません、監督かコーチどっちかにして下さい。俺は二人の話を同時に聞くことは出来ませんわ」
彼はたまりかねてこう言った。それを聞いた二人は顔を見合わせて頷き合った。
「そういうことなら」
そして彼の指導には青田があたった。そして足立、梶本に次ぐエースが姿を現わそうとしていた。
足立光宏。高校からアンダースローに転向した彼はシンカーを武器に一試合十七奪三振の記録を打ち立てていた。そして昭和四二年、この年の彼は快刀乱麻の活躍を見せた。
スペンサーが打つ。突っ込む。大熊や阪本がその脇を固める。そして代打には高井がいた。阪急は最早かっての弱小球団ではなかった。
そして見事初優勝を達成した。西本は宙を舞った。
「あの阪急が優勝したんやからなあ」
大叔父の目は温かいものであった。
「御前に言うても知らんやろなあ。あの頃の阪急は」
「悪いけれどな」
僕は苦笑した。実際そんな昔の話は見たことがない。生まれていないから仕方がない。
「まあシリーズでは負けたけれどな」
彼はそう言うとまた悲しい目になった。
「あの頃の巨人は強かった
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