第3部:学祭2日目
第14話『唯誠(ゆいま)』
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親しくなったら嫌だし」
「でも……。お姉ちゃんは伊藤君を求めている。今回沢越止に襲われた時も、泣きついたのは私じゃなくて、伊藤君だった……」
私じゃなくて、と言った時の声は、妙に低い。
「だからどうしたっていうの!? ほら、行くよ!!」
ためらう憂の腕を引っ張り、梓は突っ走る。
誰もいない、薄暗い休憩室。
しばらくずっと、唯と誠はベッドの上で抱き合っていた。
服を整えていない唯。その白い胸元が、大きく見える。
「……」
誠のどぎまぎが、ドキドキに代わっていた。
そのまま、一見すると平淡にも思える時間が流れていく。
それでも、時間がきわめて長くなったように、彼には思えた。
自分の胸の中ですすり泣く唯を見ていると、唯に言わなければならないことを、言うのをやめようかとためらってしまう。
しかし、父の顔が浮かび上がった瞬間、何か吹っ切れたような気持ちになる。
「……落ち着いた、唯ちゃん?」
「……うん……」
涙と鼻水ですっかりくしゃくしゃになってしまった顔を、唯は上げた。
ハンカチで顔を拭いて、彼女は穏やかな表情になる。
吹っ切れている今、そして彼女が落ち着いた今、打ち明けなければ。
そう思って、彼は、真顔で、切りだしていた。
「ごめん……さっき言った通り、俺は言葉のことが好きなんだ。
唯ちゃんも好きだけど……。友達以上の思いはないんだ」
その後、非常に不気味な沈黙が流れた。
唯は、何を言ったらいいのかわからなかった。
誠の言ったことが、まるっきりの冗談だと信じたかった。
「……あのね、唯ちゃん。」最初に口を開いたのは、誠だった。「今言ったとおりだから。俺は、言葉のことが好きなんだ。
もっと早く言いたかったんだけど、気持ちがふらついてばっかりだったし……唯ちゃんががっかりして傷つくのかと思うと……」
今更ながら彼は、自分の優柔不断を恥じていた。
けれどこれ以上、父と同じ轍を踏みたくはない。
そう思って、腹をくくった。
やがて唯は、静かに、
「……それは、桂さんに言われたからじゃないの?
『止さんと同じ道を歩みたくないなら、最初につき合ってた自分を捨てたりはしない』って……」
「それは……」
「それは違うと思う。マコちゃんが本当に好きな人を選べばいいんだよ」
唯は、誠と同じ真顔になっている。
なるべく、理屈を並べ立てて、彼を引きとめようと思った。
さっき言ったことは嘘、あるいは勘違いなんだ。
マコちゃんは私が好きなんだ。
そう自分に、言い聞かせていた。
澪と言葉は、唯と誠を探して榊野校内を一緒に疾走していた。
2手に別れたかったが、まだ七海の息のかかった生徒がいないとも限らない。
急いで3年2組の教室へと
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