第3部:学祭2日目
第14話『唯誠(ゆいま)』
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「……く……!」
誠は手すりをしっかりつかみながら、足の痛みに耐える。
とっさにつかんだので、階段から8段下に転がり落ちるのだけは免れた。
しかし、その拍子に右足首をねん挫してしまう。
何とか姿勢を直し、足を痛めない形で座り込む。
野次馬もそのことに気づいているようだ。
「大丈夫ですか?」
通りかかった人たちが何人か、気にかけて周りに寄ってきていた。
「いえ、大丈夫です……」
周りに心配かけないようにと、誠は手すりを使って立ち上がり、よろよろしながら階段上のところに行く。
と、その時、
「あのう……伊藤さん……ですよね……」
野次馬をかき分け、一人の少女が湿布薬を持ってやってきた。
金髪で、やや垂れ目。桜ケ丘生徒の格好をして、眉がたくあんのように太い。
「ええ、そうですけど……」
「私は、琴吹紬と言います。
沢越止を調べているうちに、息子の1人に貴方がいると知りまして……。
今回沢越止を捕えるために、SPを出したのは私と、父の会社です」
誠はムギの顔を見て、頭の中で引っかかっていた記憶を引き出し、
「……もしかして、唯ちゃんや田井中さんの言ってた、ムギさんですか?」
「ええ」
「それにしても、ずいぶん用意がいいんですね……。俺も正直、親父を何とか止めたいと思ってたんだけど」
「まあ、大がかりのほうがいいですしね」ムギは話題を変えて、「実は、SPの待合室にいた唯ちゃんがいなくなってしまって……。伊藤さんなら知っていると思うのですが。どこにいるかご存知ですか?」
「唯ちゃんが!?」
誠は小声で驚きの声を漏らす。
「ええ、ちょっと目を離したスキにいなくなったそうで……。ひょっとしたら、沢越止に襲われているかもしれなくて……」
「実は俺も、唯ちゃんとはぐれてしまって……。SPが引き離しちゃったこともあるけど」
「そうですか……」
深刻な表情になるムギを見て、誠は奥歯をかみしめる。
すっかり不安と、父親への怒りでいっぱいになってしまっていた。
「親父……俺を殺そうとしやがった……」
思わず口から、自分でも驚くようなドス声が出てしまっていた。
「え……」
「実は、親父の奴に、階段から落とされそうになって。
とりあえず手すりを用いて、助かったんだけど……」
「……伊藤さん……」
ムギの憐れみの目を受ける。
ありがたいような、辛いような、そういう思いを背負いつつ、誠がとりあえず携帯を取り出す と、着信メッセージが残っている。
唯からだった。
『マコちゃん、今どこ? こちらは3年4組の教室を出たとこ。今すぐ会いたいよ!』
「唯ちゃん……」
ムギはそれを横で聞きながら、
「着信があってから、そんなに経ってないみたいですね。無事だといいんだけど……」
「心
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