第一章
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にいる白髪の人を指差した。
「あの人!?」
見れば口をへの字にして腕を組んで試合を見守っている。何か頑固親父そのものの外見であった。
「そうや、あの人や」
大叔父は得意気にそう言った。自分のことでもないのにそんなに得意になるのが不思議だった。
「西本さんや」
「西本さん!?」
僕はその名を聞いて大叔父に対して尋ねた。
「そうや、西本幸雄さんや。近鉄の監督や」
「ふうん」
その時僕は選手と監督の区別もついていなかった。ベンチにいる人間全員が試合をするものだと思っていたのだ。
「あの人は凄い人やで」
彼はまた言った。
「そんなに?」
「ああ。今の阪急を強うしたのもあの人や」
「あれっ、近鉄の監督ちゃうん!?」
「今はな」
大叔父はまた得意気に笑った。
「前は阪急の監督やったんや」
「ふうん」
そしてこういう話をしながら野球を観戦していた。もう二十年以上も昔のことである。
「けれどな」
大阪ドームでの帰り道で大叔父は話を続けていた。
二十年以上の歳月の間に僕も大叔父も変わった。背は僕の方がずっと大きくなり大叔父は一度酒で肝臓を壊した。それ以来酒は飲んでいない。
「一つだけあの新聞を褒めたいところがある」
「野球のことやろ」
僕は相槌を打つように言った。
「そうや、ようわかったるやないけ」
大叔父はそれを聞いてニンマリと笑った。
「子供の頃から聞いとるさかいな」
僕も言葉を返した。実際にこの話も子供の頃から聞いていた。もう習慣である。どうもこの大叔父は話が少しくどい。
「そうか。まあ今からそれについてじくり話そうか」
そう言うと居酒屋を指差した。
「おっちゃんお酒はもう飲まんのやろ」
「そうや。けれどつまみを食べるのは好きや」
そういう人だった。飲むのも好きだが食べるのも好きな人だ。
「どや。何なら奢るで。いつもみたいに」
「悪いな。そう言われると行きたくなるわ」
やはりただ酒はいい。僕は喜んでそれを了承した。
「よし、じゃあ行こうか。肴は近鉄と阪急の話や」
「ああ。いつものやつやな」
そして僕達はその居酒屋へ入った。
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