第八章
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の音を聞き杉浦は喜んだ。
「降ったか」
彼にとって恵みの雨であった。
これで一日休息がとれた。彼は機嫌よく好きな囲碁に興じた。
だが手の動きが妙だ。いつもはパチリ、と音を立てさせるのに今日はそっと静かに置く。
「どないしたんや、音は立てさせへんのか」
「え、ええちょっと」
彼は先輩にそう言われ慌てて誤魔化す。何とかばれずに済んだ。そして翌日の試合に向け英気を養うのであった。
次の日、今日で決まるかも知れない。南海ナインは眦を決して球場に向かった。
見れば晴れ渡った綺麗な秋の空である。杉浦はそれを眺めていた。
「青いな、何処までも続くようや」
白い雲もある。これ程絵になる空はそうそう見られるものではない。
「今日みたいな日に決められたらいいな」
彼は邪心なくそう考えていた。そこへ鶴岡がやって来た。
「今日いけるか」
彼に先発を言いに来たのだ。
「はい」
杉浦は頷いた。これで決まった。
そしてマウンドに立った。巨人の先発は藤田である。
「今日だけは頼むぞ」
彼はマウンドで右の中指を見て言った。それはまるで祈るようであった。
だが杉浦の立ち上がりは今一つであった。彼は三回まで毎回ランナーを背負う状況であった。
連投のせいだろうか。鶴岡はそう思った。だがどうやら違うようだ、と思うようになっていた。
「どっかおかしいんちゃうか」
彼はそれは口には出さなかった。他の者に知られてはチームに動揺が走るからであった。
一回も二回もランナーを背負いながらも併殺打で切り抜けていた。やはり流石である。
それでも九回までもつとは思えなかった。鶴岡は杉浦の投球を細部まで見た。
「・・・・・・指か」
鶴岡はそこでようやく気付いた。思えば今まで何処かおかしな様子があった。
それも中指のようだ。爪を傷めたのだろうか。
「スギの持ち球はストレートの他はカーブとシュートしかあらへん。爪はあまり考えられへんな」
では何か、彼はすぐにわかった。
「マメか」
ベンチを一瞥する。どうやら今杉浦以上の投球をできる者はいそうにない。
「ここはやってもらうか」
彼は決断した。見れば野村がマウンドで杉浦と話している。
「ノムは知っとるみたいやな」
サインの打ち合わせのふりをして杉浦を気遣っているようだ。
「あいつだけが知っとるのは好都合やな」
彼はここでコーチの一人を呼び寄せた。
「はい」
呼ばれたそのコーチはすぐに鶴岡の側へやって来た。
「これスギに渡せ」
彼はここで懐からあるものを取り出し白い布に包むと彼に手渡した。
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