暁 〜小説投稿サイト〜
追憶は緋の薫り
悪夢から目覚めれば…
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るほどになったがそれでも人間の生きる醍醐味の一つでもある睡眠を妨害されることには慣れない。

 目覚めて間もない体にひんやりとした液体が食道を流れ込んでいくのはとても心地が良い。

 頭の中ではまだ幾重にもないであろう過去を遡り、ある人物を見つけたのと左ポケットにねじ込んだ携帯電話からバイブ音が鳴ったのはほぼ同時だった。

 あて先は母親からだった。

 今どこにいるの?また怖い夢でも見た?と、文面からも気遣いが溢れている。

 きっと、鍵を掛ける音に気付いてもぬけの殻の部屋を確認してからたどたどしい手つきでこのメールを打ったのだろう。



……また、あの人を心配させてしまった。



 大丈夫。ちょっと友達と待ち合わせをしているんだと、偽りを送信する。

 彼女は信じてくれただろうか、さらに五分以上経ってもそれに上乗せしたメールは届かなかった。

 風が少し強く吹く。

 木の葉のさやぐ音がまるで「僕」がさめざめと泣いているように聞こえる。

 例え夢とは言え、救うことができなかった自分の愚かさと弱さが有無を言わせずこちらを攻め立てているのではないかと思わせるのだろう。


「……じゃあ、どうすれば良かったんだよ」


「「どうすれば……」って何がだ?東雲(しののめ)


 傘を持つ手に僅かに力が篭る。

 朝の早い時間にこんな人気のない場所で誰かに聞かれるとは想定外だ。

 しかも、この声には聞き覚えがある。

 振り返った先には数学教師で担任の青野先生が実に爽やかな笑顔でおはようと、右手を軽く上げた。


「おっおはようございます…」


「どうした?こんな時間に」


 まだ学校は始まってないぞと言う彼の言葉を意識的にうっちゃり、何故ここにいるのか出来るだけ平静を装って尋ねてみる。

 青野は白梅(しらうめ)学院に勤めてまだ七年で、俗に言う「新米が発芽玄米になった」のが奴だ。

 だからだろうか、その思考と言い行動と言い何かと熱い所がある。


「何を言っているんだ、先生はこれくらいが普通だぞ」


「そっそうですか…」


 やっぱり暑苦しい、改めてそう思う自分がこの場から逃げ出さないことが不思議だった。

 授業や人間性などに申し分はない。

 一教師を捕まえて上から物を言うほど地位や名誉がある訳ではないが、致命的な欠陥を指すならば迷わずそこをプッシュしたいくらい紫紺は苦手だ。     


「……ま、待ち合わせをしているんです。桜井と・・・」


 偽りを飲み込んで笑顔を返したがその目は死んでいた。

 何は口より物を言うとはよく言ったものだ。


「おお、そうだったのか!悪かったな邪魔
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