悪夢から目覚めれば…
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の日は長続きの風邪に少々の不安を抱きつつ自室の二段ベッドの下の方で大人しく寝ていた。
きっと子供ながらストレスを溜め込んでいたからであろうが、あの日網膜に焼きついた映像と断末魔にも似た思考の濁流を今でも忘れることは出来ない。
その後睡眠がとても恐ろしくなったがそこはやはり年齢相応の少年で、どんなに抗おうとしても瞼が重くなり夢でまた叩き起こされた頃には夜明けを迎えていたが、ラスト数十分間の無声映画に編集されていた。
良し悪しもないがどうせ見るならばもっと楽しい方が良い。
駅から一本道にある自宅から歩いて約十五分の小高い丘の上には彼が小等部から通う白梅学院がある。
文武両道を謳うこの学園には芸能や財界など卒業後も目まぐるしく活躍をする者が多いと入学案内に載っていた気がするが、彼にとってそれは無駄知識に他ならなかった。
憧れの誰それの後輩になった所で結局は自分がどうなりたいかであって、これはもう死語かもしれないがミーハーになれと言う訳ではない。
あくまで過去の彼らは宣伝であって直接在校生に手を下すことはないが、感のいい人間は入学する前から気付いていてその何十倍もの覚悟を決めているだろう。
周囲から自然と比較される自分に……。
まだ朝の早い高等部の校庭には当たり前だが誰もいない。
晴れていたのならば朝練のため何らかの運動部がいたりもするのだが、今日はあいにくの雨でグラウンドを占めているのは暑苦しくも群れて走る野球部でも身なりも足取りも軽やかな陸上部でもなく、いくつもの水溜りだった。
一日開けてから今日で二日目になるがその勢いはまだ治まらない。
ここまで降り続くと逆にある種の潔さを感じる。
古めかしい錠前で閉められたままの正門を確認し終えるとそのまま横切り、目の前に差し掛かった橋を渡らずに左に曲がる。
平均成人男性が二人並んで歩けるくらいの細道をずっと進んだ先には、向かい合う二体の稲荷に護られた華宵殿が時を越えても変わらぬ姿のまま佇んでいた。
ここに来るのも随分久しぶりである。
「ここに来るのも何年ぶりだ?」
周囲には彼の他には人っ子一人もいない。
カバンから取り出したクラッシュゼリーのふたを軽やかな手つきで回して口に含む。
あの夢に叩き起こされた朝はとてもじゃないが食べる気にはなれない。
それは小学生の頃も同じだったが、当時は家族に心配を掛けたくなくて胃に押し込めていたけれどやはりそこは無理が合ったようで、ある日とうとう親の目の前で盛大に吐いてしまった。
それ以後、紫紺の朝食はこれか手軽に食べれるバーやクッキーなどが定番だ。
最近では母にダイエットをしているからいいわねと、冗談が言い合え
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