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もう一人の自分
第十章
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ったという。けれど」
「けれど!?」
 記者達は杉浦のその言葉に突っ込みを入れた。
「一人になったら嬉しさがこみ上げてくるかも知れませんね。一人になったら静かに」
「そうですか」
「はい」
 インタビューはそれで終わった。杉浦はベンチの奥へ消えていった。
 これが後にこの言葉になる。
「一人で静かに泣かせて下さい」
 知的な顔立ちの美男子である彼に相応しい言葉だと誰もが思った。そしてそれが何時しか彼が言った言葉となった。
「あれ」
 杉浦は翌朝の新聞を見て首を傾げた。
「そんなこと言ったっけなあ」
「スギ、ブン屋はそうしたもんや」
 鶴岡はそんな彼に対し言った。
「面白い、売れる記事にする為にあえてそう書くんや。そっちの方が売れるやろ」
「まあそうでしょうけれど」
「そして御前はそれを勲章に思わなあかんで」
「勲章にですか」
「そうや」
 鶴岡はそこで頷いた。
「そういうふうなことを成し遂げたし言ったんや。それは御前が活躍して記事になるような男や、ちゅうことや」
「そういうものですか」
「そういうもんや。わしはいつも言うてるな」
「あ」
 杉浦はそこでハッとした。
「思い出したな」
 鶴岡はそんな彼の顔を見てニヤリと笑った。
「グラウンドには銭が落ちとる。そしてプロ野球は客商売や」
「はい」
 如何にも大阪の球団らしいと言えばそうなる。だが鶴岡はそれだけで留まる人間ではない。
「お客さんにいいプレイを見せた者にはそれだけの追加の報酬が貰えるんや。その記事がそれや」
「そうなんですか」
「そうや。多分御前の今回のことは野球がある限り語り継がれるで」
「そんな大袈裟な」
 杉浦は鶴岡のその言葉に苦笑した。
「大袈裟やない。ホンマのことや。御前がこの世におらんようになっても人はこのことを語り継いでいくで」
 杉浦はそれを聞いて顔を強張らせた。そこまで聞いて怖くなったのだ。
「怖がることはない。それに胸を張ったらええ」
「胸をですか」
「そうや、胸を張るんや。怖がることはない。そしてな」
 鶴岡は言葉を続けた。
「それを光栄に思うんや。ずっと御前のことを覚えててもらうんやからな」
「はい!」
 杉浦は頷いた。そして彼は意気揚々と大阪へ戻り御堂筋のパレードでその晴れやかな笑顔を見せた。それはまさしく勝者の笑顔であった。
 あれからもう四十年以上の歳月が流れた。大阪球場も後楽園球場ももうない。杉浦も鶴岡もこの世の人ではない。
 だが大阪球場での戦いの記憶は今でも残っている。今も杉浦のあの時の姿が写真で残っている。
「凄いピッチャーやった」
 彼をその目で見た多くの人がそう言う。彼は鶴岡の言ったように人々の記憶に永遠に残る男となったのだ。
 そのことは今も語り継がれている。そ
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