第七章
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強いものであった。
「だがこれから毎日練習してもらう」
「毎日ですか」
「そうだ」
また有無を言わせぬ口調であった。
「江夏に悟られない為にな。悟られたら何もならん」
広岡は奇策を用いる時は徹底的にそれを隠蔽するのがここでも発揮された。
「奇策は見た目にはいい。お客さんも喜ぶ。だがな」
彼はここで釘を刺した。
「見破られては何にもならないんだ」
策が見破られた時のダメージの大きさは誰よりもわかっていた。
余談であるが森はそれを後に嫌という程思い知らされることになる。
彼が横浜ベイスターズの監督に就任した時だ。この時ヤクルトには古田敦也がいた。
「確かに素晴らしいキャッチャーだ」
森はそれは正当に評価した。
「だが力だけで攻める必要はない。策で攻めればいい」
彼は古田とヤクルトを知略で攻めることにした。
結果は大失敗であった。森の策はことごとく古田に破られてしまったのだ。
「まさかこれ以上とは」
野村と並び称される知将が一敗地にまみれたのだ。見れば野村が率いる阪神もだった。
機動戦も投げるコースも攻撃における戦術も全て見破られていた。横浜はヤクルトに歯が立たなかった。
「戦力の問題じゃない」
森は首を横に振った。
「知略には一つの弱点がある。見破られては何にもならない。そして」
彼は青い顔で言葉を続けた。
「それ以上の知略の持ち主に出会ったら倍にして返される」
それが古田であった。森も野村も自分達以上の知略の持ち主に遂に勝てなかったのだ。
だがそれはかなり後の話である。今の話ではない。
「やるぞ」
反対は許さなかった。
「わかりました」
広岡も森も付き添っていた。そして毎日プッシュバントの練習をしたのだ。
「遂にあの練習の成果が出てきましたね」
「ああ」
二人はそれを見ながら言った。
「ここまでくるのにどれだけ練習したか。だが」
広岡は釈然としない面持ちの江夏を見ながら言葉を続ける。
「野球は一瞬の為に全てを賭けるものだ。そして今がその時だったのだ」
哲学めいた言葉であった。だがそれは真理でもあった。
「江夏はまだ落ち着いていない。ここを攻めるぞ」
「わかりました」
ここから西武の攻勢がはじまった。江夏は打ち崩され日本ハムは敗北した。
それでプレーオフは決まった。日本ハムは工藤で一勝はしたものの、第一戦で江夏を攻略されたこといより流れを完全に掴まれてしまった。西武は見事リーグ制覇を果した。
「無念だな」
大沢は宙を舞う広岡を見て呟いた。
「こっちよりすげえ奇策を用意していたなんてな」
不思議とさばさばした声であった。
「すいません」
隣にいた江夏は申し訳なさそうに頭を下げた。
「謝る必要はねえよ。おめえはよくやっ
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