第五章
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二人は江夏を見て囁き合った。作戦の成功を確信していた。
江夏はマウンドでは常に冷静な男である。取り乱すことはない。
だがこの時ばかりは違っていた。思いもよらぬ攻撃に戸惑っていた。
「あんなところでバントを仕掛けてくるとはな」
それを見た大沢は危機を感じた。
「まずいな」
これが勝負の分かれ目になった。ここまでに西武は周到な準備を重ねていたのだ。
広岡と森はまずスコアラー達に江夏を徹底的に調査するよう依頼した。
「どんな些細なことでもいい、資料は全部掻き集めてくれ」
「わかりました」
こうしてスコアラー達はデータを収集した。江夏のことはかなり有名である。だがそれでも彼等はデータを集めさせたのだ。
「日本ハムの切り札はあいつだ。ならば」
「その切り札を叩けばおのずと日本ハムには勝てる」
これが広岡だった。彼はかってヤクルトの監督時代リーグニ連覇を果した巨人に対しこう言った。
「巨人恐るるに足らず」
「え!?」
それを聞いた選手達は思わず耳を疑った。
「信じられないか」
彼は選手達を見回してから言った。
「ええ、幾ら何でも」
「やっぱり巨人は強いですよ」
「そうだよな。投打に確かな戦力が揃っているし」
選手達は口々にそう言った。
「成程、確かに戦力は揃っている」
広岡はそれを聞き頷いた。
「だが采配はどうだ」
そしてあらためて問うた。
「え!?」
選手達はまた耳を疑った。
「聞こえなかったか。ではもう一度言おう。采配はどうか」
「それは・・・・・・」
巨人の監督である長嶋の采配のことを問うているのだ。
「長嶋君の采配は理論的ではない。先のことを考えず、それは常に勘によるものだ」
長嶋の采配を一言で言い切った。
「その為ミスも多い。選手達がそれをカバーしているのだ」
その通りであった。彼の采配はお世辞にもいいとは言えない。
「それにより戦力が削がれているのは否定できない。そしてそのカバーができるのは」
彼は言葉を続けた。
「かっての黄金時代の戦士達だけだ。しかしその彼等も老いている。生き残りも少ない」
はっきりとそう言い切った。
「だから総合力では大したことはない。そうした意味で私は巨人は恐れる必要はないのだ。そして」
ここで彼はスタッフに何冊かのノートを持って来させた。
「ここに巨人の全選手のデータがある。これで巨人のことは全てわかる」
「何と」
選手達はもう何も言えなかった。
「諸君等は巨人に負けることはない、いや、勝てる」
はっきりと言った。
「だから怖気付いてはいけない。巨人を倒し必ず優勝するのだ」
冷徹な目が光った。そして彼等は巨人との戦いに挑んだ。
死闘であった。十勝九敗、そしてあとは引き分けだった。だがこ
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