第九章
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いないだけである。
「このまま日本一ですね!」
記者達が長嶋に対してインタビューをしている。
「それはまだわかりませんけれどね」
長嶋は口では否定する。しかしその顔には笑みがこぼれていた。
巨人ファンの声が鳴り響く。もう勝負あったかのようであった。
「・・・・・・帰ろうか」
「ああ」
阪急ファンも去って行く。おの足取りは重いものであった。
これで三勝三敗、遂に五分と五分の状況となった。だが阪急にとってはもう絶対絶命の状況であった。
山口も打たれた。山田もだ。切り札はもうない。そして流れは完全に巨人のものである。
マスコミも完全に巨人贔屓になっていた。テレビでももう長嶋が勝ったかのような騒ぎであった。
「ふざけんなや」
阪急ナインは怒りに満ちた声でテレビを切った。彼等はまだあの試合のことをはっきりと覚えていた。
「おい」
そこで後ろから声がした。上田のものであった。
「監督」
選手達に顔を向けられた上田はにこやかに笑った。だがその笑みは何処か力がなかった。
「今日はご苦労さん」
「はあ」
選手達は彼に言われ応えた。
「疲れたやろ、今日は思いきりはめ外してこい」
「しかし」
「ええから」
上田の笑みは優しいものであった。それがかえって選手達を沈黙させてしまった。
「銀座でも六本木でも好きなとこ行って来たらええで。疲れを吹き飛ばすには酒が一番や」
「はあ」
「監督は言うんでしたら」
酒は飲み過ぎるな、スポーツ選手の鉄則である。だが上田はそれを知りながらあえて言ったのだ。
負けた、そう感じたからだ。その原因は他ならぬ自分の焦りによるものだった。
「済まんな」
上田は夜の銀座に繰り出す選手達を見送って一人呟いた。その顔にはえも言われぬ哀しさがあった。
「わしのせいで御前等を負けさせてな」
彼は部屋に戻るとまた言った。
「折角西本さんの無念晴らせるところやったのに」
そう思うと無念で仕方なかった。
「明日で全部終わりか、何の為に出たんや。チョーさんの引き立て役かい」
椅子に座った。やりきれない気持ちで一杯だ。
「わしも飲もうかな」
ふと思った。実際飲まずにはいられなかった。
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