第八章
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脳で流れを掴んでいた。
「いや、そういうわけにはいかんで」
彼は首を横に振った。
「絶対勝つ、西本さんの為にもな」
彼は三塁側スタンドを睨みつけた。そこには憎っくき宿敵巨人軍の旗が翻っている。
「次で決める、絶対な」
彼はベンチへ顔を向けた。
「絶対に勝つ、その為には何でもしたるで」
彼はそう言い残しベンチから消えた。
その足取りはやはり少しせかせかしていた。何処か落ち着かない。
彼の焦りは収まっていなかった。それどころか益々酷くなっていく。
しかしそれに本人は気付いていなかった。あくまで冷静なつもりであった。
「やはり監督は普段と違う」
それを見たナインは思った。そしてシリーズの行く末に危惧を覚えた。
「もしかすると」
だがそれはすぐに頭の中から取り払った。縁起でもない。
その中で一人冷静な男がいた。だがこの時は誰もそれには気付いていなかった。
舞台は後楽園に移った。第六戦である。阪急の先発を見たファンは沈黙した。
「ホンマにこりゃあかんかもな」
「絶対ウエさん今動揺しとるで」
彼等は口々に言った。阪急の先発は山口であった。
山口は先発をつとめることもあった。だからこそ阪急を優勝に導くことができたのだ。
しかし、しかしである。彼は既にこのシリーズで五回目の登板である。そのフォームも第一戦の時とはどう見ても違っていた。力が足りないのだ。
そしてボールも。確かに速い。だがあの重い音もしない。普通の速球であった。
「打たれるな」
多くの者はそう見ていた。試合の結果を予想する者は多かった。
しかしここで打線が爆発した。この二試合今一つ元気のなかった阪急打線が巨人に襲い掛かったのだ。
五回表を終わって七対〇、勝負あった、と誰もが思った。
だが巨人は諦めてはいなかった。
五回裏まずは二点を返した。
「第一試合での球威はもうないな」
二点を返した巨人打線はそう感じていた。今の山口なら打てる、そう確信していた。
六回裏巨人はランナーを二人置いた状況で切り札を投入した。
淡口憲治、チームきっての勝負強さを持つ男である。
「出たな」
巨人ナインは固唾を飲んだ。こういう時の淡口は頼りになる。淡口はそのファンの期待を一身に背負って山口と対峙した。
第一試合では全く歯が立たなかった。ボールがミットに収まってからバットを振る始末であった。
しかし今は違う。彼は今まで山口のボールから目を離さなかったのだ。
「打てる」
彼はそう思いバッターボックスに入った。
山口が投げた。あの高めのストレートだ。
「よし!」
彼はバットを一閃させた。それはそのままスタンドに突き刺さった。
巨人ファンの歓声が沸き起こる。それを見た上田はようやく悟った。
「
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