第七章
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やろ。山口はコントロールが悪いからど真ん中に入ったんやろ」
確かに山口はコントロールが悪かった。だがその剛速球はコントロールなぞものともしない程のものであった。
「そやろか」
彼は友人の言葉に賛同しかねた。
「これでこのシリーズ三回目の登板やしな。それにシーズンも働きづめやったし」
彼は山口に疲れがあるのではないか、と考えた。
「まさか、去年もこんなんやったぞ」
「去年からやな」
二年越しの活躍である。その間剛速球一本でやってきた。変化球もあるが彼の武器はやはり速球である。
身体には負担がかかる。ましてやあの小さな身体でダイナミックなフォームで。もしかするとかなり疲労が溜まっているのでは、彼はそう思った。
「安心せんかい、明日は勝つで」
友人は心配する彼に対し笑顔で言った。
「西宮で胴上げや。ウエさんが巨人の前で高々と上がるのを見ようで」
「ああ」
彼は笑顔を作った。そして答えた。
「じゃあ帰ろか。そんでビール飲んで今日のことは忘れるんや」
「ああ」
二人は別れた、そしてそれぞれの家路についた。
だがその間も彼は顔が晴れなかった。やはり山口は普段の山口ではなかった。
「大丈夫やろか」
彼は不安になった。今まで巨人に敗れ続けた忌まわしい記憶が脳裏をよぎる。
「いつも勝てる、っちゅう戦力で挑んで負けてきたんや」
阪急のこれまでの歴史は常にそうであった。巨人に挑み続け敗れ去る。闘将西本は遂に阪急で日本一の胴上げをされることはなかった。
「もしかしたらまた」
そう思うと自然に俯いてしまう。それを止めることはできなかった。
彼はそのまま玄関をくぐった。そして朝になるまでそこから出ることはなかった。
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