第五章
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すら練習させていた。
全ては山口を攻略する為だった。その為だけに練習をさせていた。
巨人ナインは汗だくになりながらも練習を続ける。まるで何かに取り憑かれたかのように。
こうしてその日は終わった。次に行われる死闘の前奏曲として。
第四戦、阪急の先発は予定通り足立であった。巨人の先発は堀内である。
「おい、しゃもじ、わざわざ阪急の日本一決める為に出て来てくれたんやな!」
堀内はその顔の形からそう仇名されていた。
「御前みたいな老いぼれ出すとは長嶋もよっぽどヤキがまわっとるな。とっとと打たれて帰れや!」
「その前に阪急の胴上げ見てからな!」
阪急もまた関西の球団である。ファンのマナーはお世辞にもいいものではない。関西で最も人気があるのは阪神だがパリーグになるとこの阪急の他に近鉄、南海がある。いずれも阪神ファンとかけもちの者も多くその野次は極めて酷いものであった。
「まるで甲子園に来たみたいだな」
巨人ナインはその野次を聞きながら言った。
「連中もまるで阪神みたいな顔しとるわ」
そう言って阪急側のベンチを見る。彼等はもう勝ち誇った顔で巨人ベンチを見ていた。
「そうはさせるか」
主砲である王が言った。
「勝負というのは最後まで諦めては駄目だ」
彼はそのあまりにも苛烈な勝利への執念で知られている。王貞治の辞書には敗北、諦念、容赦、手加減、手抜きなどという一連の言葉はない。ただ勝利、それだけがあるのだ。
その王の執念が巨人のベンチを覆った。上田は迂闊にもそれに気付かなかった。
「今日で決めるんや」
彼の頭の中にはそれしかなかった。
「今日でわし等の悲願が達成されるんや」
巨人を破っての日本一、それこそが彼の、阪急の望みであった。
「悪太郎、とっとと打たれろ!」
「しゃもじは米櫃に帰れ!」
彼の後ろから阪急ファンの罵声が聞こえてくる。彼はそれを自軍へのエールのように思えた。
「お客さんの為にも勝たなな」
人気がないと言われるパリーグでも阪急の人気のなさは際立っていた。昨年日本一になった時でも観客の入りは悪かった。
だがそれでもいつも来てくれたのがその僅かなファン達であった。上田はそんな彼等に深く感謝していた。
「おい」
彼はナインに顔を向けた。
「今日で決まりや」
「はい」
阪急ナインは頷いた。そして一斉にベンチを出た。
阪急ナインが位置についた。そして遂に試合がはじまった。
まずは福本の先頭打者アーチが出た。阪急は三試合連続で先制点を挙げた。
「よし、これでこのまま突っ切れ!」
ファンが叫ぶ。試合はこれで阪急に大きく傾いた。巨人も王のホームランで同点にするがすぐに逆転される。こうして二対一のまま試合は五回に入った。
五回表柴田勲がスリーベースを放った。上
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