第十一章
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第十一章
「巨人ファンは薄情やと思うとったけれどな」
実際に巨人ファンの一部はそうである。彼等は野球が好きなのではない。勝つことだけが好きなのだ。野球にもスポーツにも愛情があるわけではないのだ。
「案外熱心な人もおるみたいやな。うちのファンにはかなわへんが」
パリーグのファンの特徴である。数ではないのだ。問題は愛情なのである。
「さて、お客さんの為にも今日こそ勝つで」
「はあ」
見ればそのコーチも元気がない。
「おい、コーチがそんなことでどないするんや」
上田は彼に対して言った。
「大きく構えとくんや。そうでないと勝てるもんも勝てへん」
「そういうものでしょうか」
だがそのコーチは背を丸めたままである。
「そうや、あいつを見てみい」
上田はそう言うとマウンドにいる足立を指差した。
「ここはあいつみたいにしゃんとしとくんや、それで勝つつもりでいかんかい」
見れば足立は飄々とした様子でマウンドで投球練習を行っていた。
(騒げ)
彼は巨人ファンの大歓声を聞いて心の中で呟いた。
(騒ぐだけ騒げ、騒いでもわしは痛くも痒くもないわ)
全く同ずることがなかった。こうして彼は試合前の調整を終えた。
試合がはじまった。もう巨人ファンは勝った気でいる。
一球ごとに歓声が起こる。だが足立は黙々と投げる。
まずは阪急が先制点をあげた。福本が巨人の先発ライトから打ったのだ。
「ダチさんが頑張ってくれとるさいかいな。わし等が打って援護せなあかんやろ」
彼はホームに戻ると出迎えたナインに対して言った。
「そやな」
ナインはその言葉にようやく我に返った。福本もホームランを打つまで忘れていたことだった。
「わしも今思い出したで」
福本は顔を崩してこう言った。
「けれど今ので思い出した。勝たなあかんわ。そんで日本一や」
「よし」
ナインもようやく自分達のペースを取り戻した。これで阪急は息を吹き返した。
しかし巨人も反撃を開始した。高田のホームラン等で逆転する。しかし足立はそれでも表情を崩さない。
「それがどないしたんや」
口では言わない。だが全身でそれを言っていた。彼は全く動ずるところがなかった。逆転で沸き立つ後楽園の観衆を向こうに回しても、だ。
七回表、阪急は終わるつもりはなかった。ここでサングラスをかけたキザに見えなくもない男がバッターボックスに入る。
森本潔である。彼もまた西本に育てられた男だ。だが地味な存在であり阪急にあっては影の薄い男であった。
「誰だ、あいつは」
「知らないな」
巨人ファンは今この時点で彼を見てもそう言っていた。それ程までに影の薄い存在であった。もっとも山口の存在があまりにも大きく他の選手達に脚光が浴びなかったせいもあるが。
森本はゆ
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