第三章
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
が今それがようやくわかった。
花束が渡される。加藤はそれをキョトンそひた顔で見た。
「何やこれ」
まさか逆転満塁サヨナラホームランでの花束ではないだろう。加藤は何かと思った。
「記念の花束ですよ」
チームメイトの一人が笑顔で言った。
「記念!?」
「ええ、加藤さんの三百号アーチの記念のですよ」
「ああ、そうやったんか」
加藤はそれを聞いてようやく理解した。そういえばそろそろだった。
加藤はそれを受け取った。そしてそれを手に観客達に顔を向けた。
「よおやった千両役者!」
「御前もこれで近鉄の選手になったな!」
「西本さんにその花見せたるんや!」
近鉄ファンがこぞって声をかける。彼はそれを笑顔で受けた。
「おおきに」
彼は言った。そして満面の笑みでベンチに戻った。
「今まで近鉄とは何度も戦ってきたけれど」
記者達に対して言う。
「こんなええ舞台用意させてもらえるとは思わんかったわ。冥利につきるわ」
この一打で加藤は甦った。後に彼は二千本安打を達成し名球界に入るがこのサヨナラアーチがなければ入ることはなかったであろう。かって阪急黄金時代を支えた打撃職人の復活を知らしめた一打であった。
これでドラマは終わりだと誰もが思った。
「誰だってそう思うでしょうね」
香川はこう言った。
「普通はそうですよ。こんなこと誰だって思いつきませんよ」
首を横に捻ってそう言った。顔には苦笑がある。
「本当に。あんなことになるなんて」
加藤も同じことを言った。香川にとっても加藤にとっても予想もできない話であった。
「しかし」
彼等はここでも同じことを口にいした。
「野球の神様の配剤でしょうね、本当にだから野球は面白い」
二人はここで純粋な笑顔になった。野球を心から愛する者の顔になった。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ