水深1.73メートル 背伸び 遠浅
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校庭に「ハイっ!」が響く午後の一時。
校舎裏の砂利を踏むとその奥に軟式庭球のクレイコートが見える。白い薄着の女子がラケットで球を拾う。僕はそれをマジマジと見ないように視界の脇で目に留める。とても短いスカートだし。恥ずかしいし。彼女達はそれを着てはつらつとしている。薄着のせいなんだな、きっと。コートの脇には手を後ろに組んだ直立の女子達が並び、ラケットが球を捕らえるたび「ナイスキャッチ!!!!」と声を上げる。
親友から聞いた。僕はあの子のうちの誰かに片思いをしているらしい。そうらしいいんだ。聞いた話だけど。
とても強い横顔をした女の子がいた。とてもまつ毛の長い肩幅の広い娘だ。その横の娘が彼女に耳打ちをする。彼女の強い目線が僕に移り、「ひゃっ!!!」と叫んだ。首が大きく後ろに反れて細い鼻の穴をこちらに向けた。そして笑い声を聞いた。みんなの手前直ぐに収まった。彼女は下を向いて唇を歪めている。変に反応してしまったからかな。「ガバッ!!! ァァァッ」って感じで。でもまぁ僕のせいだろ、きっと。
僕は目をそらして校舎の二階を見た。それが彼女達の目にどう映るかなんて気にしていられない。下は見たくない。見たくないんだ。僕の喉仏が肥大していくように感じる。ジンジンする喉の、その皮をつまんで鼻を啜る。まばたきが多くなる。僕は身体を、その内側を薄めていく。外気に馴染む様に希薄にして僕と「外」との境目をぼやかす。いや、「ぼやかす」というのは嘘かも。ぼやけていくのに逆らわないようにしているのかも。その力は凄く強いものだから。何だろ? 女の子を意識する時は、どうしてもそうなっちまう。
庭球場から見えなくなるまであと50メートルはある。その道をひどくぼやけた僕が歩いていく。
「ナイスキャッチ!!!!」
体育館に続く長い廊下を途中で左に折れると誰も使わないトイレがある。「音楽準備室」の前のトイレ。鏡の中には青白く浮腫んだ顔の僕がいた。眼球が少し飛び出して見える。瞳孔が開いて無感情に見える。少し髪の毛を切りすぎたと思う。僕はもう少し顔を隠さなきゃ。
鏡の前に一人でいると、馴染みの僕の顔が自惚れの扉を叩く。
「イケるんじゃないっすかね? あの娘」
浅いため息をついて、「ウン」と力強く頷いた。僕は自惚れなんて滲ませて歩きたくない。
そう、この日、僕は片思いを止めた。
マキヲ一四歳の夏の終わり
暖かい寝具に包まれて、僕らは温かい空気を胸に宿す。それを頭に満たし、空気と溶け合い、温かい未来を見つめる。身を起こせば冷ややかな現実は折り重なり、温かなつながりを引き離し、サンドウィッチの具の様な態度で、「我々こそが人生の醍醐味なのだ」と言わんとする。僕達は走り抜けなければならない。冷ややかな「人生の具」を突き抜けて、柔らかなあの場所に辿
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