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カナリア三浪
カナリア三浪
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ろ過された歌が凡庸な工業製品なのかもと知る。この工業製品は電気があるから動いている。ではなぜ電気がこの世に存在するのか? なぜ音があり、声があり、歌があるのか? それは、さえぎられた世界をつなぐはかない糸ではないか。神が孤独な人間に与えた個々をつなぐための糸ではないか。そいつはもう愛ではないか。世界は何らかの形でつながって一つの生命体となるのではないか。
「奴はガンだ」この言葉に自然に含まれている社会観よ。俺、脳みそ、俺、脳みそ。出来ることなら前頭葉。俺のパワーで少子化問題、不景気すべて解決。窓に向かって指を指して「ドーン!」と叫んだら頭がスッキリした。唇を弾いて「ポンッ」と音を出した。俺の無意識に刻まれた一年が、軽く弾けた。新しい年である。

 体の中身がはみ出しているように敏感で、全身性感帯とはこんな感じかと思う。美しい女が思い出される。ステージで笑っちまった夜が浮かぶ。高く飛び跳ねて、地に落ちるイメージに取り憑かれる。敏感な心に、これはいささか厳しい。意識に一瞬ふわりと膨らみを感じる。手触りからして愛である。しかしそれは、遠くではじけた爆弾みたいにすぐ消える。
心はパイプになり洒落た店の天井みたいに。それは、いらないものを追い出すために張り巡らされる。裏方むき出しの姿は美しさの一部になる。夜の工場みたいに美しい。しかしながらその中には刺激的なものが流れている。知らずに溜め込んだ刺激的なものは、都合の良いカタルシスに任せておけばいいじゃない。誰かがうまく排泄してくれるから。職人が一生懸命パイプを張り巡らせて、生きやすい世界にしてくれるさ。自分でやれば良いじゃないって? その通りなんだけどさ。敏感なところにいつまでも刺激を与え続けるのは危険。
どんな危険な物だって、包まれていれば安心だ。そう考える科学的な人々を想う。大丈夫、放射能は漏れませんから。あの原発事故は人間の心の現われなんだな。頑丈な魂をもってして、危険をコントロール。夢だよね。あの日、不意に突き立てられたトゲ。どこで誰の心がはじけたか。
どんな経験だって心の作用で姿を変える。都合の良いお馬鹿さんが歳をとらないのはそのせいだ。昔、自分を抱いた男が、どんなに黒くても、愛があれば大丈夫と言いやがる。排気口から出た腐臭が心の鼻をつく。誰かの夜の経験の匂いだ。平気で生きてゆけばいい。俺にも排気口はある。勇気がチラリと顔を出す。汚い経験をしても輝く人間はそういう理屈だ。みんなそうなんじゃないか? うまい具合に記憶が通り過ぎる抜け道を持っているのではないか。顔がちょっと歪んでいるのは、上手いことパイプがつながらなくて、内部に漏れ出しちゃってるんだな。
 待ち合わせ場所にたどり着くまでに、敏感は勇気に替わっていた。
 鎌田さんは、すぐ俺を見つけた。ダウンジャケットにニット帽、とがった靴を履いてい
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