第一章
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にとっては同門の者ばかりである。
「西本さんだけやな、ここにおらへんのは」
西本は既に監督を退いていた。最後の近鉄、阪急両チームによる胴上げに加藤も加わっていた。
西本はこの時解説者になっていた。よく藤井寺にも仕事でやって来ていた。
「おう、あいつ等も流石に固くなっとるわ」
加藤は西本にインタビューを受ける同僚を見て笑った。
見れば羽田も栗橋も梨田もである。皆西本の前では直立不動になっていた。
「そういえばあの連中とは長い間戦ってきたもんや。それが同じ釜で飯を食うようになるとはなあ」
人間の世界とはよおわからんもんや、加藤はそう思った。
近鉄と阪急は長年に渡って優勝をかけて争ってきた。西本幸雄を中心として。
いつもどちらかに彼がいた。阪急の監督だった時も近鉄の監督だった時も。
そして加藤も今西本のインタビューを受けている羽田や栗橋も西本に育てられた男であった。言うならば兄弟弟子である。
「だからここは居心地がええんかな」
目を細めてそう思った。かっては阪急でもとびきりのはねっかえりであった。派手に暴れたものであった。無様な試合をした近鉄ナインを怒鳴りつけたこともある。
「わしもあの時は若かった」
ほんの数年前のことである。しかしもう遥か昔のようだ。
「おい」
昔のことを色々と思い出す加藤に声をかける者がいた。
「え、わし!?」
「そうや」
その声には聞き覚えがあった。あの声だ。
「か、監督」
加藤は思わず立った。そして直立不動でその人の前で畏まった。
「おいおい、何をそんなに慌てとるんや」
声の主は笑ってそう言った。
「い、いえ何しろ監督の前ですから」
「わしはもう監督やないぞ」
低い声だった。だがそこには誰にも何も言わせぬそうした頑固さと全てを包み込む優しさがあった。
その西本であった。彼はにこにこと笑いながら加藤を見ていた。
「どうや、調子は」
「それはその・・・・・・」
加藤は口篭もった。今彼は絶不調なのであった。
「あまりええことないみたいやな」
「はあ」
実は彼はこのシーズン不調であった。打率もホームランもかっての阪急の主砲とは思えぬ程であった。
「加藤ももう年やな」
ファンの間からこういう声がした。
「そやな、今までよう打ったけれどな」
近鉄ファンだけでなく阪急ファンもこう言った。そんな声が加藤には辛かった。
しかも膝も負傷していた。悪いことばかりだった。
しかし彼は何とか踏ん張ろうとしていた。折角近鉄に来たのだ。このチャンスを逃すつもりはなかった。
「今が踏ん張り時やぞ」
西本はそんな彼の思いをよくわかっていた。そしてこう言った。
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