第5章 契約
第82話 人ならざる者たち
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れの音さえも聞こえない隔絶された空間。
しかし……。
しかし、その瞬間、世界に微かな違和感が発生する。
そして、同時に鏡の間の入り口付近からこちらに接近して来るふたつの影。
一人は魔法使いに相応しい黒のローブ姿の老人。こちらの方は良く知って居る人物。
もう一人の方は初老の女性。見た目の年齢から言うのなら、六十歳以上だと言う事は確実。
但し、ふたりともその見た目の年齢の割には矍鑠とした……やけに姿勢の良い歩みでゆっくりと俺たちに近付いて来て……。
「久しいの、シャルロット姫」
そう、話し掛けて来る白髪の老人。
いや、トリステイン魔法学院のオスマン学院長。
成るほど。系統魔法使いでない事は確実だと思って居ましたが、このお爺ちゃんも結界術を行使可能な、ハルケギニア世界では裏の世界に分類される世界の住人でしたか。
この周囲には俺の施した音声結界と、それにティターニアの施した人払いの結界が存在していたのですから、普通の人間……このハルケギニアの基本的な系統魔法を行使する魔法使いでは、この場所に近付いて来る事はおろか、ここに俺たちが存在する事さえ認識する事は不可能のはずです。
しかし、その空間に、結界を切り裂く事もなく侵入して来る事が可能なのですから。
それだけでも、このお爺ちゃんが、ただのお爺ちゃんなどではない事が判ると言う物です。
「お久しぶりで御座います。オスマンさま」
椅子より立ち上がり、貴族の姫君風の挨拶を行うタバサ。その姿は堂に入ったモノで有り、普段の彼女の仕草や雰囲気とは一線を画すのは間違いない。
それに、無理をして社交的に振る舞っている、と言う表情も見せる事がないので、今日これまで挨拶を交わして来たガリア貴族たちも、大きな違和感を覚える事はなかったでしょう。
但し、彼女と霊道と言う不可視の絆で繋がっている俺にならば感じられる心の在り様に関しては、また別の物を発して居る事についても気付いて居たのですが。
まして、本当の意味で彼女が笑顔を魅せる事は有りませんでした。
「オスマン老。トリステイン魔法学院の学院長を務める貴方が、このような時期に、このような場所に居ても宜しいのでしょうか?」
もっとも、タバサ自身が煩わしいと感じて居る人付き合いをこれ以上させる必要はない。そう考えて、タバサの挨拶が終ったのを機に俺の方で会話を引き継ぐ。
それにこの疑問は当然の疑問ですから。現在、ほぼ休学状態のタバサや、本当に魔法学院で授業を受けて居るの、と言う疑問符が付くジョルジュやモンモランシーなどは別にして、その他の女子生徒に関しては未だ冬休み前で、平常……と言うにはやや寂しい感は有りましたが、それでも授業を行って居るはず
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