第5章 契約
第82話 人ならざる者たち
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夜の属性を持つ貴族が怖れるモノなど存在しない。しかし、今のヤツの表情からは何故か、怖れのようなモノを感じる。
但し、心の動きに関しては……。
「いや、これ以上の捜査は危険。直ぐにその捜査からは手を引くべきやな」
かなり否定的な気を放ちながら、先ず、其処まで告げて置き、その後に微妙な空白を続ける俺。俺をその捜査の後任に当てるのが、一番安全に調査が行える方法。そう暗に伝えるように。
何故ならば、俺とタバサ。それに、湖の乙女たち精霊王の助力が得られたら、クトゥルフの邪神相手でも、瞬間に魂を奪われると言う事がないのは確認済みですから。
あの神族……いや、神に等しい存在との戦いに於いて一番恐ろしい部分はその部分。神と呼ばれる連中の姿を見た瞬間に魂を奪われ、畏れからマトモに行動出来ないように成るのが普通の人間の反応なのですが、タバサはそんな事は有りませんでしたから。
当然、俺の方にも問題は有りません。
しかし……。
「今の貴方を、そんな些末な事件の捜査に投入する訳には行きませんよ」
それに、貴族の誇りに掛けて、一度開始した捜査から簡単に撤退させる訳には行きません。ジョルジュはそう締め括る。
その台詞は普段通り柔らかなコイツの口調。しかし、その中に強い決意が込められて居るのは間違いない。
確かに、誇りと生命とどっちが重い、……と一般人の俺ならばそう問い掛けますが、それを貴族。それも、普通の人間ではない夜の貴族に問い掛ける無意味さを知らない訳でも有りません。
彼らの世界で誇りを失うと言う事は死んだも同然の事。真の意味での高貴なる者の義務と言う中で生きて居る連中ですから。
「成るほど。それは余計な気を使わせたようで、悪かったな」
取り敢えず、そう答えて置く俺。それに、彼……ジョルジュと同じレベルの能力を持って居る存在、もしくはコイツ本人が捜査に当たっているのなら、引き際は心得て居るでしょうし、そう簡単にくたばるヤツでもないとは思います。
俺の答えに、少し首肯いた後、元の柔らかなイケメンに相応しい笑みを取り戻すジョルジュ。
そして、
「それに、今、我々が追って居る事件に真の意味で貴方が関わる必要はないはずですよ。この件を含めて、今まで貴方が関わって来た事件すべてに関して」
少し言葉を選びながら。更に、言葉が足りない問い掛けを行って来る。
周囲は銀幕の向こう側で展開する無声映画の一場面。まったくの無音の空間から、中世から近世に掛けてのヨーロッパの貴族が描いた舞踏会の夜が演じられていた。
其処に怪しい動きや気配を感じる事はない。
確かに、今、俺たちの周囲は音声結界に覆われて居て、俺たちの話声は周囲に漏れ出る事は有りません。
その上、
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