夢と現
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「「ごめん。ありがとう」」
大切な人を傷つけてしまってごめん。解ってあげられなくてごめん。でも、ありがとう。どちらからともなく発せられた言葉は、確かにお互いの隙間に潜り込んだ。
ややあって、ラウラが折り入って頼みがあると一夏に話しかけた。
「なあ、オルコットや鳳にも謝りたいのだが」
「解った。今日はもう遅いから、明日の晩に俺の部屋に来てくれ。みんなを集めておく」
もっとも、一夏には想像できた。三人でお礼を言いあい、もじもじしたり赤くなったりする三人の姿が。
戻ってきた。普通の日常が、やっと戻ってきた。そんな実感が、一夏のうちから零れださんばかりにあふれていた。
それは、一夏が学園の地下で死体を見せられる日の前夜だった。
おまけ
「ところで勝敗はどうする?やはり、じゃんけんで決めるか?」
汗を流した後、道場の入り口で合流したラウラが一夏に訊ねた。その様は、なんとなく幼い子供に似ていた。それで、ついラウラに勝ちを譲ってしまった。
「俺の負けでいいよ。ラウラの勝ちだ」
そう言うと、ラウラはつまらなさそうな顔をした。
「それじゃつまらない。やはりじゃんけんで」
最初はグーとラウラが言う。あわてて一夏も構える。
「「じゃんけん、ぽん!」」
結果は、一夏がグー。ラウラがチョキ。
「俺の、勝ちかな」
「ああ、そして私の負けだ」
気まずそうな一夏に対し、ラウラの表情はどこまでもすがすがしかった。
「そうか、私の負けか……ふふ」
その笑顔は、しかし、あまりにも清々しかった。それは、一夏に勝ったことを後悔させるほどに、なぜか危機感を覚えさせるほどに綺麗だった。
「じゃ、織斑。ドアとベッドと洗面所とハードディスクを壊して悪かったな。すまなかった」
そして、唐突に思い出す。
――負けたら謝る。とにかく謝る!
――勝ったら許す。とにかく許す!
一夏は……勝ってしまった。つまり……
「もう一回……」
「へ?」
「もう一回、俺が負けるまで勝負じゃくそおおおおおおおお!」
「え、あ、嫌だ!この勝負は私の負けだ!絶対に譲らん!」
翌日、二人は筋肉痛で午前の授業をサボったという。
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