夢と現
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。覚悟を決めて、一夏は木刀を構えた。それに合わせるように、ラウラも木刀を向ける。
「いいぜ。やろう」
「漸くその気になってくれたか。後悔しても知らんぞ?」
そして、叫ぶ。
「負けたら謝る!とにかく謝る!そして――」
「勝った方は許す!とにかく許す!」
これは、謂わば延長戦みたいなものだ。本当は、もうお互いにどうしようもないほどの溝は造ってはいない。ただ、今のままでは友達にはなれない。だから、戦う。お互いに何か理由がほしかった。謝る理由を、許す理由を。感謝する理由を、受け入れる理由を……
打ち合わせた木刀の重みは、たったの一撃だが非常に重かった。お互いの腕が弾かれる。そして、そのままお互いに体を回転させ、もう一度木刀をたたきつける。
「痛っ!」
「ぐっ!」
そして、それはお互いのわき腹に直撃した。手加減が一切入らない一撃だった。その一撃は、お互いを無言のままに代弁していた。彼の放った一撃は、ただの安寧に縋っているような人間には放てなかった。彼女の放った一撃は、今までを必死に生きてきた人間にしか放てなかった。そして、そんな二人だからこそ、そんな一撃にも耐えられた。痛みに顔を歪めながらも、間合いを剣の位置に戻し、叫ぶ。
「「まだだ!」」
そして、彼は木刀を振りかぶり、彼女は木刀を腰に溜めた。
振りぬく。
その一撃も、やはりお互いの木刀が衝突するだけだった。お互い、そのまま勢いを殺さずぶつかり合う。一夏は身長と体重を利用し、ラウラは足腰の屈強さを武器に。手と手がぶつかり合うが、痛くは無かった。押し押され、そんな攻防が何回も繰り返された。
「せやっ!」
汗が滲んでも、彼の眼は閉じることは無かった。
「はあっ!」
手が痺れても、彼女の手が木刀を手放すことは無かった。
彼らはすでに知っている。お互いに向かい合うということを。それは決して戦うということではない。しかし、お互いの気持ちを知るために、自分が取るべき方法を。衝突も、悔恨も、友情も、全ては青春の一ページだ。青春は、あまりに短く、それゆえに光のように過ぎ去っていく。だから、全力を尽くすのだ。全力を尽くした先にあるのは、決して先の見えぬ闇ではないのだから。
お互いに打ちつ打たれつ、気がつけば二人してその場にへたり込んでいた。
「……これじゃ、本当にジャンプみたいじゃないか」
そういう一夏の表情は笑っていた。
「言った、だろう……日本人は全員、殴り合いの後に友情を深めあうと……」
息も絶え絶えにラウラが答える。
この勝負の行方は唐突にやってきた。あと少し、ラウラが病み上がりでない全力ならその結果も違ったかもしれない。ともすれば、違わなかったかもしれない。だが、二人が笑って許しあえる、その結末だけは変わらなかっただろう。
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