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最期の祈り(Fate/Zero)
夢と現 
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優しさに触れて、冷え切った背中に触れて初めて解る。彼がどういう人間かを……
 
 「衛宮……切嗣」
 
 それが全ての答えだった。
 「お前は、アイツを知っているのか?」
 「ええ……と言っても、過去に抱えているものを本当に知ったのは、全てが終わってしまった後だった。私じゃダメだったの。私じゃ彼を救えなかった……聖杯としてではなく、アイリスフィールとしてあの人を抱きしめなければいけなかった!なのに……」
次第にその声は激情を帯びていき、遂には怒りと涙の入り混じった叫びとなって彼女の胸を貫いた。しかし、なお足りぬというように女の怨嗟は続く。
 「私は呪いと成り果て、あんなにも愛した人を何年も呪い続けた!私が私じゃなくなった後もただあの人が弱っていくのを見ていることしか出来なかった!」
 その涙は、弱まるどころか一層激しさを増していき、だんだん赤く染まっていった。
 「ま、待て!一体なんの話をしている!?」
 その怒りは解った。キリキリと胸を苛むこの苦しさは、目の前の女の衛宮切嗣に対する狂おしいまでの愛ゆえだろう。救えた命よりも救えなかった命への愛の方がより深くなるように、アイリスフィールと名乗ったこの女の愛はどうしようもないほど膨れ上がっていったのだろう。だが、話が見えない。
 目の前の女がここまで泣きわめく理由が解らない。ただ、自分の無力を呪うだけの怨嗟では無い。もっと、残酷な運命を呪ったかのような叫びだった。
 しかし、ひとしきり叫ぶと女は視線を彼女に戻した。幾らか落ち着きを取り戻したその眼には、涙が溜まっていた。
 「ねえ、あなたはどうしてあの人を想ったの?最初に語った物語にあの人の名前は一切出さなかったのに?」
 「それは……」
 「そう言えば、初めてあの人と戦った後、“殺してやる!”なんて言ったわよね?ハラハラしたのよ。あれ、本気だったの?」
「……つい、ノリで。そ、そんな怖い顔するな!だって、あそこまで舐められた戦闘をされたの初めてだったし……」
 可愛くもじもじする彼女だが、言っている事とやっている事のギャップについて。
 「まあ、あの人も大人げなかったと言えば、確かにそうですし……冗長不安定なときだったから仕方ないのかな……でも、そんなあなたが、どうして彼に想いを抱くようになったの?」
 女の声は、どこか挑発めいた笑いを含んでいた。しかし、改めて思い返してもなぜ衛宮の名を口にしたか、その正確なところは彼女にも解らなかった。ただ、心の奥底を震わせるような存在に想いを馳せただけだ。そして、一人の男の名前が胸を締め付けた。ただそれだけの、なんの根拠もない空想だ。気が付くと、彼女は困ったように笑っていた。
 「何でだろうな。無意識のうちに気になっていたとでも言えばいいのか……ただ、一目ぼれでは無い。そもそもアイ
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