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最期の祈り(Fate/Zero)
夢と現 
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 あらゆる命は等価である。一つの命に優劣は無く、その重みを一人の人間が裁定するには余りに罪深い。人がその優劣を決定する際、出来るだけ多くの人間を救うという言い訳をし、命を選別する。しかし、それは悪しき行為ではない。人は現を生きる以上避けられない命の命題を、いつかは課される。自分では選択できない命の選択を、多くを救うという尊き行為に託し、人はその行為の罪深さからようやく逃れられる。
 だが、彼は違った。人が言い訳に使わざるを得ない行為が、彼にとっては採るより他に無い究極の呪いだった。命の尊さを、きっと誰より理解しながらも、彼は切り捨てられる命を看取ってきた。他の誰でも無い、自分がどれだけ忌み嫌おうとも、彼にかけられた呪いは命を選別し続けた。
 止りたかった。だが、彼はあまりに多くの命を背負いすぎた。救った命も、救われなかった命も背負い、未来に待ち受けている命を自分の手だけで背負い、走り続けた。
 彼自身も気付いていた。その手は血塗られており、これから更に赤く染まっていくであろうことを。彼には、もはや自分の為に誰かを救うことなど出来ないということを。自分が人を救うのは命のため。決して誰かを救えない。彼にかけられた呪いは、彼を蝕み、もはや彼自身が呪いになっていた。そこにいるだけで、彼を愛する人を殺していく呪いの如き正義。
 だが……だが、もし、彼が――命を選別するしか出来ない、そんな彼が、人を救えたら

 「それはとっても素敵な事だと思うわ」

 そう、雪の聖女は言った。
 「何を言っている?」
 壁無き部屋があり、椅子に相対し座っている人間がいた。二人とも、美しい銀色の髪をしていた。そんな二人は、片や悲しそうに笑い、片や無表情に涙を流していた。
 「何を、言っているんだ……?」
 語られた内容が解らない訳では無かった。彼女の知らない筈の男の話が、こんなにも愛おしく、体中を締め付けられるように苦しく感じられた。だから、なにも出来ずに、ただ泣くより他に無かった。これは、恐らく終わってしまった男の話だろう。今更、自分が何をしようが、その男は救えない。それが解っているから、泣くのだ。
 「これはあなたが知っている人のお話。愛おしく、救いようがなく、頑張り続けた人の物語よ」
 続く言葉は、否が応でも彼女の胸をせき止めていった。
 「泣いている人を見れば背中を撫でてあげて、笑っている人を見れば、つられて幸せになる。本当はそんな優しい人だったの。でも、その優しさが増すほどに、その手を血で染めていったわ」
 血塗られた手で人を包み、その凍えきった心で尚以て人を愛す。傍から見ればぞっとすることだろう。悪魔は人を愛さない。そうあれと願われた悪魔は人を脅かすように、そうであると信じられた人間が、その胸に愛を抱こうと誰が思おうか。その願った祈りに触れて、
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