第五章
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第五章
「それもあえてせんとは」
「こんな野球はどうなのか」
口撃というと野村だが森も時々思わせぶりな言葉を言って惑わせたりもする。しかし二人はそれもしない。そうして果し合いそのままの野球に入るのだった。
そのシリーズはというと下馬評では横浜有利だった。先発の力はほぼ互角と思われそこに長打力はないが切れるところのない連打のマシンガン打線、そしてストッパーに大魔神佐々木主浩がいる横浜が有利と思われていた。結果だけを見ると下馬評通りだった。
横浜が優勝した。このチームにとっては三十八年ぶりの日本一だ。
その日本一になった権藤はこんなことを言った。
「優勝は二年続けてこそだ」
「二年ですか」
「一年じゃ駄目なんですか」
「二年続けて優勝してこそだ」
それでだというのだ。
「それが出来た東尾は本物だ。うちの本当の勝負は」
「来年ですか」
「来年なんですか」
「そうだ。来年優勝してこそだ」
自分のチームについてだ。こう言うのである。
「今年はその為のはじまりだ」
「ううん、そうなんですか」
「日本一になってもですか」
「そういうものですか」
周囲は話を聞いて権藤のその一度の勝利に驕らない、次の勝利を見る考えにある種のダンディズムも見たのだった。そしてだ。
敗れた東尾もだ。こんなことを言った。
「大トロと赤身の違いが出たな」
「寿司のネタの?」
「それのですか」
「どっちがトロでどっちが赤身かはな」
そのことについて東尾が言う言葉は。
「言うまでもないな」
「ですがペナントはです」
「優勝できましたし」
「けれど負けは負けだ」
東尾は首を横に振って言った。
そして次にはだ。こんなことを言った。
「来年は辛いだろうな」
「来年の優勝はですか」
「それはですか」
「赤身は赤身だ。所詮な」
こうしたことを言ってだった。彼はグラウンドを後にしたのだった。こうして彼等の、ピッチャー出身の監督の勝負は終わったのだった。
しかしだ。それだけではなくだ。
野村はだ。阪神、楽天の監督にもなるがそこでも己のやり方でいった。東尾のやり方とも権藤のやり方とも全く違っていた。
森もだ。その権藤の後に横浜の監督になり己のやり方でいった。彼等は常にベンチ、キャッチャーボックスから見て采配を考えるのだった。
そんな四人を見てだ。また野球ファン達は話す。
「同じ野球をやってるのにな」
「全然違うよな」
「ピッチャーとキャッチャーってな」
「全然違うんだな」
「何もかもな」
「しかし」
ここでまた話される。
「どれがいいか悪いかはな」
「それは一概には言えないか」
「そういうものか」
「野球は一つじゃないからな」
様々なやり方があり考えがある。そういうこと
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