第3部:学祭2日目
第13話『危機』
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もっとも、古くて薄汚れた通路とトイレは、学祭に来た人を興ざめさせそうだが。
「誠君……どうして私を捨てたの……?」
ぼそぼそ呟く言葉に、SPは困惑しながらも、
「何があったのか、全然わかりません。
ただ、貴方が持ってるレザーソーと、あの女の子達の様子から考えて、なんかただ事ではないと思って、止めに入ったんですがね」その後、黒いトランシーバーを取り出し、「沢越止を発見した? わかりました。ちょっと私用ができてしまってるんで、後から追い付くと言ってください」
連絡を取り、言葉の様子を見る。
彼女は相変わらずもごもごと呟いており、目は光なく、焦点もあっていない。
「何があったのか、できれば話してもらえませんか」
焦点の合わない彼女の目を見て、SPは話しかける。
が、言葉は答えない。
「誠君……どうして平沢さんのところへ行っちゃったの……?」
ぼそぼそと呟いている。
SPは一つ息をして、
「お願いですから、今ならだれも聞いていないですし・・・。」
そしてまた、しばらく静かな時間が流れる。
しかし言葉は、まったく答えない。
「話したくないなら、話さなくていいです。
でも……そんなことをしても、全然相手は苦しまない!」
あきらめたSPだが、真剣な声で語りかけた。
「……」
「相手を高笑いさせるだけ。
それだけじゃない。貴方の親や、兄弟皆が苦しむことになります」
「……」
「人間は時として、自分一人の力で生きていると思い込みがちですがね。
でも金八先生じゃないけど、人間とは、人の間と書くものです。
親や姉妹とか、自分を気遣ってくれる人がいて初めて生きていける。
貴方は一人じゃない。家族や友達、皆が貴方を心配してくれているんです」
「……」言葉は鞄の中で、レザーソーのキャップをつけた。「私は……」
聞いているのかいないのか、いまひとつ分からない。
「すみませーん、桂をこちらに渡してほしいんですけどー!」
体育館の外から、女子生徒の声が聞こえてきていた。
「もう少し、時間をください」SPはうまく誤魔化した。「誰か貴方を心配している人が、来るといいのですがね……」
言葉は虚空を見ながら、ぼんやりとしているようである。
「誠君……誠君……私よりもどうして平沢さんが……?」
「言葉……なぜ返事をよこさないんだ……?」
誠は榊野の校内を歩きまわる。
皆皆は彼を気にもせず、好き勝手な方向に歩きまわっている。
ふとその中に、体格が良いグラサン、スーツの男がいることが気になる。
「?」
周りをきょろきょろとみた。
「くそ!」
「意外と強い……!」
SPが壁のところで、そう言ってうなっているようだ。
股間を押さえたり、脇腹を押さえたりしている。
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