第3部:学祭2日目
第13話『危機』
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したつもりなんだけどよ」肩をすくめた。「そういえば澪、桂に会ってから、榊野に行くの、全然怖がらなくなったよな」
「そうか?」
「ああ、うちらが榊野で演奏するということになってから、ずーっと元気がなかったのによ」
「そうか?」
律はようやく、にいっと笑って、
「やっぱり、あいつのおかげなのかね」
「そう思うか?」
「あたしは思うぜ。ま、あたしはお前と違って、西園寺と出会ってから、特に変わったことはねえと思うんだけどよ」
「変わらない方が、律らしいよ」澪は笑いながら、「そう言えば、姉らしい唯を見たのは、あの時が初めてだったな……」
「は?」
「ほら、憂ちゃんがいたるちゃんを襲った時。あの時唯は本気で憂ちゃんを張って、本気で憂ちゃんに怒ってた。いつも憂ちゃんに世話になってる唯じゃん。あいつらしくないなあって思った」
「そう言えば、そうだったな……。それが、伊藤のおかげだったとでも?」
「少なくとも私は、そう思うけどな」
視線を枕に向けて、澪は呟く。
「さあ……。まあ、少なくともお前は、桂と出会ってから変わったと思うぜ」
律は、笑った。
あとは、何もしゃべらない。
沈黙がただ、流れていく。
やがて律は、つまらなそうに澪の部屋を物色し始めた。
暗い中で。
「……桂と会ってから、榊野に行くのに動じなくなってる、か……。
『貴方の、笑顔が見たいから、貴方が苦しんでるのが、耐えられないから』、か……」
澪は横になりながら、一人ごちた。
それがどこなのかは、わからない。
だだっ広い緑の草原。周りに広がる、無数の杉の木。
しかし目の前には、深い深い谷がある。
自我を失った言葉は、ふらついた足取りで、そこに来ていた。
「……私なんか……いなくなったって……」
その呟きは、むぐむぐしていてちょっと聞きとれない。
世界と刹那は、こっそりと言葉を追跡し、様子を見ている。
崖の上から言葉は、あいかわらずもごもごしたつぶやきを漏らす。
何とか言動を聞き取れた。
「世界」
近づこうとする世界を、刹那は止める。
一方で、携帯でメールを入力していた。
「……平沢さん……誠君を奪ったこと、許しませんから……」
そう呟くと言葉は、鞄の中の何かを確認する。
木の陰に隠れていた世界は、それをはっきりと目にとめた。
レザーソー。
「桂さん……何を……」
つぶやく世界。
踵を返し、ふらりふらりと歩いていく言葉。
2人はさっと隠れる。
そのまま、どこへともなく言葉は歩いていく。
「はあー、到着うー!!」
正門から榊野学園の校内に入って、唯はいのいちに大音声をあげた。
2日目の学祭も、非常に賑やかである。
庭の至る所に屋台ができ、お好み焼きやら焼き
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