第10話 「別れの時」
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」
「死ぬつもりはない。だからあんたも生きろ」
「……ふふ、勝手に助けようとしているくせに身勝手なことを言うわね。……いまさら生きてどうなるというの? もう遅いのよ」
「遅くなんてない!」
声を荒げてしまったからか、床が少し崩れた。
もうあまり時間が残されていない。さっさとプレシアを引き上げて脱出しなければ、俺もあの世行きだ。そうなってはファラを道連れにしてしまうだけでなく、叔母やあの子を悲しませることになる。
「あの子はあんたのことを母親だって思ってる。それにあんただって気づいたんだろ! だったらやり直せるはずだ!」
「……やり直す時間なんて私には残されていないわ」
「だとしても……あの子と話せる時間があるのなら、できる限り話すべきだ! ……親と話すことは、子供にとって必要なことなんだから」
俺は今にも泣きそうな顔を浮かべているのか、プレシアの目が大きく見開かれている。彼女は一度俯いた後、再びこちらに顔を向けた。それは母親の笑みと呼べそうな顔だった。
「あの子のこと……お願いね」
プレシアは最後の力を振り絞って俺の手を払った。声にもならない声を上げて手を伸ばしたが、彼女の手を握り直すことはできない。
落ちていくプレシアに自分の母さんの影が重なり、悲しみや寂しさ、喪失感が一気に湧き上がる。
「アリシア! 母さん!」
「フェイト!」
落ちていくプレシアやアリシアに手を伸ばすテスタロッサをアルフが止める。
テスタロッサがふたりの名前を叫ばなかったなら、俺が「母さん!」と叫んでいたかもしれない。そんなことを考えているうちに、ふたりの姿は見えなくなってしまった。テスタロッサの目からは涙が溢れている。
――何で……何でもっとしっかりと握っていなかったんだ!
自分がしっかりと握っていたならば、プレシアだけでも助けられたかもしれない。助けられなかったとしても、テスタロッサに会話させてやれたはずだ。親を失う悲しみを知っているのに……俺は……。
「あんたも何じっとしてるんだい! 脱出しないとくたばるよ!」
アルフに腕を引かれた俺は、思考の渦から抜け出せない状態だったが脱出を開始した。脱出する中、俺の口の中は血の味がしていた。
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