明けに咲く牡丹の花
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「あー。めんどくさい。こんなめんどくさい追撃初めてなんだけど」
思わず愚痴が零れだしてしまう。
林道という少し狭い区画に於いて数十にも満たない兵が待ち受けていたと思うと、一斉に矢が放たれ、左右の木々の隙間からも少ないが同じようにばらばらと。
次いで行われるのは死兵の如き兵による特攻突撃。死ぬことも恐れず、ただ前に前にと槍を突出し、片手が切られようとも、足が千切れようとも、腹を貫かれようともしつこく攻撃を加えてくる。息絶える寸前にはあたし達の兵に覆いかぶさり、別の敵兵が覆いかぶさった兵の身体ごと貫いたりもしていた。
彼らには逃走という思考が初めから存在していない。少しでも生きたいという想いが伝わってこない。向けられるのは圧倒的な殺意、そして死の間際の達成感溢れる笑顔のみ。それが何度も続いていた。
そのあまりの異様さに、先行していた斗詩は一部隊のみでは危険と判断してあたしの合流を待っていた。合流と同時に二人でどうにか突破し続けているがそれでもめんどくさい事に変わりない。
「ちょこちゃん……おかしいよ。こんな兵、死兵ですらないよ」
蒼褪めて震えながら口にするが……こんな兵、酷い言い草だろう。それぞれの想いが確かにあったのに。
あたしだけは気付いている。こいつらは皆、あたしと同じ同類に成り下がった。誇りも名も捨てて、全てを賭けて、どんな手段を使っても大切なモノだけを守りたい異端に堕ちた。同じ釜の飯を食った存在をも躊躇いなく切り捨てる様は死兵と呼ぶよりも狂兵ではないのだろうか。
そんな中、自分達の仲間ごと袁紹軍の兵を貫いていた一人の兵士は、あたしの鎌による斬撃でこと切れる間際に叫んでいた。
――御大将、俺の想いはあなたと共に。
あたしは知っている。その呼び名で呼ばれる存在が幽州の主では無い事を。ここにいるはずもない。あの人は今、もう一つの袁家の戦場にいるはずなのだから。
少なからず、ある程度の兵士には彼の影響も含まれているという事だろう。それでなければ、ただの死兵だけであるのならばここまで狂気に堕ちるはずもない。
苛立ち、確かにある。めんどくさい事は嫌いだ。でもダメだ。笑いが抑えきれない。あの人はどこまで行ってもあたしと同じで、しかも同じようなモノを増やしてるなんて可笑しくてたまらない。
「あはっ、秋兄は邪魔ばっかりするねー。まあ、仕方ないか。あたし達も邪魔してるしおあいこだよね」
笑ったあたしを見て斗詩が訝しげに見つめて来るが、なんでもないよと流しておいた。
「それよりさ。ちゃちゃっと抜けなきゃ逃げられるし、ちょっと無茶してみよっか」
「何をするの?」
「猪々子が大好きな事、だよ」
にやりと笑うと斗詩はさらにさーっと顔を蒼く染め上げて恐怖に落ちた。誰だってこんな兵達相
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