第百五十一話 四国と三河その十二
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「そして降らねば倒せ」
「では」
こうしてだった、徳川の軍勢はその得体の知れぬやけに黒い、闇夜の如き色の服の者達を攻めたのだった。
鉄砲に弓矢が来た、だが家康はそれに怯まずに言う。
「案ずるな、一度撃てば隙が出来る」
「そしてその間にですな」
「我等は」
「斬り込むのじゃ」
一気にだ、そうせよというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「今は」
「槍は叩くな」
それもするなというのだ。
「突け、よいな」
「槍を上から振り下ろすのではなく」
「前に突き出すのですか」
「今はそうせよ」
そして突き崩せというのだ。
「わかったな」
「ううむ、ではまさに突いてですか」
「この戦を決めますか」
「そうじゃ、そうせよ」
普通槍は上から叩いて敵の陣を崩すものだ、信長が槍を殊更長くしているのは長い槍で敵が近寄る前により多く叩き陣を崩す為だ。
徳川家の槍は織田家のそれより短い、そしてその槍でだというのだ。
「突け、それで敵を倒せ」
「それからは」
本多忠勝がここでさらに問うた。槍で一人突けばその槍を抜くのは容易ではない、それで今こう家康に問うたのだ。
「どうされますか」
「刀を抜くのじゃ」
「そしてその刀で、ですか」
「さらに奥に斬り込むのじゃ」
そうして戦えというのだ。
「わしも行く、よいな」
「まさか殿も」
「そうされますか」
「うむ、わし自ら斬り込む」
これが家康だ、彼は自ら先に立ち戦う。
それでだ、今もなのだ。
「よいな」
「では殿」
大久保が言って来た、ここで家康に。
「傍の守りはお任せ下さい」
「彦左衛門、頼めるか」
「ははは、それがしは元服の時に占ってもらい言われました」
大久保はその口を大きく開けて笑って言った。
「幾ら傷を受けても八十まで生きると」
「ほう、八十までか」
「はい、ここでは死にませぬ」
だからだというのだ。
「身の回りのことはお任せを」
「よいのじゃな、敵が幾らでも来るぞ」
「おお、それでは手柄の立て放題ですな」
かえってこう言う大久保だった、やはり口を大きく開いている。
「よいことです」
「ははは、そう言うか」
「はい」
ここでも笑顔で言う大久保だった。
「お任せ下さい」
「では周りは頼んだぞ」
無論家康も剣を抜いている、彼にしても相当な剣の腕だ。
だが大久保がいるなら心強かった、それでだった。
彼は自ら突っ込みそうして得体の知れない者達と戦った、そうして。
敵の中を己の兵達と共に荒れ狂いそしてだった。
その者達と戦う、その敵の強さは。
大久保は剣で敵を倒しながらだ、こう家康に言った。
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