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八条学園怪異譚
第五十三話 空手部主将その八
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 そのうえでだ、二人はその幽霊に尋ねた。
「ええと、空手部の道場にも幽霊が出ると聞いたんですが」
「日下部さん達から」
「それが貴方ですよね」
「空手部におられて顧問もされていたとか」
「それで剣道をしていたならず者を成敗されて」
「八段だったって」
「全てその通りだ」
 男の幽霊は二人の問いに強い声で短く答えた。
「そのことは嬢ちゃんから聞いたな」
「あらかた言わせてもらいました」
 茉莉也もこう言う。
「そうさせてもらいました」
「そうか」
「はい、それでなんですけれど」
 茉莉也は幽霊にさらに話す。
「この娘達にお名前を」
「そうだな、わしの名前は大田潤一郎という」
「あれっ、潤一郎って」
「そうよね」
 その名前を聞いてだ、愛実と聖花は顔を見合わせて話した。
「あの小説家の」
「あの人よね」
「父が谷崎潤一郎が好きだったのでこの名前になった」
 そうだったとだ、その男大田も言う。
「そしてわしも谷崎は結構読んだ」
「へえ、そうなんですか」
「空手と一緒に」
「文武両道でなければならないからな」
 だから本も読んでいたというのだ。
「趣味は読書、空手は人生だった」
「ううん、武道ですね」
「そこでそう仰るのは」
「健全な精神は健全な肉体に宿るかし」
 大田もこう言うのだった。
「そうあって欲しいものだからな」
「だからなんですね」
「大田さんも心身を鍛えられていたんですか」
「今話に出た剣道を教えていた教師は中学の教諭だったが心はならず者だった」
 まさに戦後日本の教育を象徴する存在だったというのだ、戦後の教師は戦前の体罰を批判しながらそれ以上に生徒に対して非常識な暴食を日常的に振るっていた。自衛隊で行えば警務隊が来る様な行為が。
「生徒の諸君に目に余る暴力を振るっていたからな」
「それで、ですかあ」
「成敗されたんですか」
「うむ、暴力を受けていた生徒達の前で徹底的に叩きのめしその罪状を教育委員会と文部省、マスコミ各社及び警察に告発した」
「それで懲戒免職ですね」
「そうされたんですね」
「悪逆非道の輩は成敗しなければならない」
 特に暴力教師の類はだというのだ。
「ああした輩が武道の評判を落とすのだからな」
「最近ではネットを使っても糾弾出来るからね」
 茉莉也はここでこう二人に話した。
「安心していいわよ」
「そんな先生って多いですからね」
「どう見てもおかしい人が」
「教師の世界はストレスが溜まりやすい、それでいて特権が多い」
 生徒に教え社会的にまともだと見られる、聖職者と言われる立場にあるのだ。
 そしてだ、日教組が彼等を守る。悪事を行ってもそれが隠蔽される様な状況を特権と言わずして何と言うのか。
「精神異常者も自然と多くなる」
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