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久遠の神話
第七十七話 百億の富その六
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「その時は誇らしげでしたけれどね」
「その人はいまも生きておられますか?」
「ええ、ですが」
 生きてはいる、だがだというのだ。
「悲惨なものですよ」
「過去の人種差別を糾弾されてですか」
「クランの系列の組織にも入ってまして」
 所謂白人至上主義者の団体だ、アフリカ系だけでなくアジア系やユダヤ系、そしてカトリック信者までを迫害する言うならばワスプ至上主義の団体だ。今も存在していることはしている。
「それも言われて」
「今も糾弾されていますか」
「自分の子供さんやお孫さんからも糾弾されて」
 当然周囲からもだというのだ。
「完全に孤立してますね、家のあちこちには人種差別主義者は死ねだの出て行けだのスプレーで書き込まれていて」
「攻撃ですね、そこまでいくと」
「役所も警察も知らんふりですよ」
 その攻撃を放置しているというのだ。
「何しろその過去が明らかですから」
「日系人排撃に人種差別主義団体に所属していたことはですか」
「大戦中相当なことをやってましたから」
 その頃は日系人、収容所に入る前の彼等を攻撃しても『その時代の』役所や警察は見て見ぬふりだったのだ。これは終戦から数年までは一緒だった。
「ですが、人種差別が悪とはっきりしまして」
「それで、ですね」
「はい、キング牧師の頃からですね」
 そしてマルコムエックスもだ、アメリカの公民権運動からその風潮が定まった。
「人種差別自体が否定されて」
「その人もですか」
「人種差別主義者とはっきりして、大戦中から終戦後数年までの日系人への暴行、略奪行為は時効でしたが」
 そのことでは罪に問われなかった、だがだったのだ。
「それから五十年近くは」
「攻撃を受け続けていますか」
「道を歩けば子供から石を投げつけられ蹴りを浴びせられ犬をけしかけられ」
 そうした物理的な制裁も受けているというのだ。
「家族からも縁切りをされて」
「今もそれが続いているのですね」
「ええ、殆ど廃人みたいになってます」
「その人はお幾つですか?」
「九十位です」
 かなりの高齢である、だがその人生の半分以上をだというのだ。
「後半生は前半生への糾弾で過ごしています」
「今もですね」
「はい、そうです」
 そうなっているというのだ。
「仕事は何とかやり遂げましたがね」
「その余生はですか」
「ずっとですよ」
 過去の罪への糾弾の中で過ごしているというのだ。
「白人の子供も攻撃していますよ」
「人種差別主義者とですか」
「ええ、私もその人に石を何発もぶつけてバットで殴ったりしました」
 少尉もだ、その攻撃に参加したというのだ。
「その頃はいいと思っていました」
「では今は」
「どうでしょうかね」
 微妙な顔になっての返事だった。
「それ
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