第三章 始祖の祈祷書
第一話 蘇る者
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いるのを見た士郎は、血が滲んだ手のひらを服で拭うと、ポケットに入れていた指輪を取り出し、アンリエッタに手渡した。
「お話しの途中すみません。姫さまこれを、ウェールズ皇太子から預かったものです」
アンリエッタは、士郎から指輪を受け取ると、目を大きく見開く。
「これは、風のルビーではありませんか。ウェールズさまから預かってきたのですか」
「はい。ウェールズ様は最後にこれを私に託しました……自分の代わりにと」
「そう……ですか。ウェールズさまがそのように……」
(……これから辛い道を行くことになる彼女のため、このくらいの嘘はいいだろう。それに……)
アンリエッタは士郎から受け取った風のルビーを薬指に通すと、小さく呪文を呟いて自分の指に指輪のサイズを合わせた。
士郎は薬指に嵌めた指輪を愛おしげに撫でるアンリエッタを見ると、誰にも聞かれないぐらいの小さな声で呟く。
「きっとあなたもそう望むはずだ……」
戦が終わった二日後。破壊されたニューカッスル城は、かつて名城と謳われたその面影を感じさせるものがどこにも見当たらない程の惨状を呈している。
かつては煌びやかな広間があり、多くの着飾った貴婦人たちがお茶を楽しんでいたであろう場所は、今や瓦礫と死体の山となっており、『レコン・キスタ』の兵士たちが、財宝漁りにいそしんでいた。
そんな中を二人の男が歩いている。
一人は羽のついた帽子をかぶり、アルビオンでは珍しいトリステインの魔法衛士隊の制服に身を包んだ男であるワルドであった。しかし、今の彼をすぐにワルドと分かる者はすくないであろう。
なぜならば彼は、あまりにも変わってしまっていたからだ。
それは、彼のニの腕の中ほどから左手がないことではなく、彼の目であった。
かつて自信に満ち、生気溢れていた彼の目は、まるで肉食獣に襲われるのに怯えている小鹿のような目に変わっていた。
恐怖と焦りに満ちた目は、忙しなく辺りを見回し、瓦礫の崩れる音を聴くごとに体を飛び上がらせていた。
そんな彼の前を、澄んだ声で快活に話して歩く男がいた。
年のころは三十代の半ば。丸い球帽をかぶり、緑色のローブとマントを身につけている。一見すると聖職者のような格好に見えた。しかしながら、物腰は軽く、軍人のようでもある。
高い鷲鼻に、理知的な色をたたえた碧眼。帽子の裾から、カールした金髪が覗かせている。
彼は、後ろのワルドに話しかけながら歩いていた。
「いやー! 子爵! きみは本当に目覚しい活躍をしたものだね! 敵軍の勇将を一人で討ち取る働きを見せるなんて! 先ほど我が親愛なる兵士がウェールズ皇太子を見つけたんだが、その体にはきみが開けた風穴が開いていたそう
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