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とある蛇の世界録
第三話
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から現れたどす黒いもやが、リリィに襲い掛かった。



 百合のツルが朧を貫く寸前。そのツルが、一瞬で現れた影に吹き飛ばされる。朧はそれを確認し、体勢を立て直す。呆けている暇はない、今破壊された百合も、もう再生を完了しているのだから。

 その影と、背中を合わせる。

「父様、これはッ!?」
「分からない。突然現れた『何か』が原因という事くらいか、分かっていることは。それに――」
「そんなことは今良いッ! 父様、こちらもわかったことがあった」
「何?」
「この辺りの百合は全部、『――――』」
「ば、馬鹿なことを……」
「そんなことを――ッ! 来るぞッ!」

 敵が増えた事により、ツルの攻撃は勢いを増した。まるで、相手の強さに合わせているかのように――

「――――まさかッ。こいつらッ! 足止めが目的かッ!?」
「その可能性は高い――父様。先に行けッ。さっきの話を憶えておけよッ、絶対に必要になるッ。あの小娘がどうなるか、にもだッ」
「言われなくてもッ!」

 一歩、朧はバックステップをとった。それに反するように、ニーズへックは一歩、大きく前に出る。

「我、祈る。我、願う。我、参る。終わりの日よ、終焉の幕よ――」

 だが、相手も馬鹿ではない。おそらくは、自立した形で、朧たちの足止めをしているのだろうから。それはつまり、優先的に攻撃対象とするべき相手を、考え選ぶことができるということ。
 数多のツルが、詠唱途中のニーズへックに襲い掛かる――が、それは朧たちにもいえることで。詠唱をするニーズへックへと、ツルが突き刺さる瞬間、横から割り込んだ、数十、数百の蛇が、その行く手を阻む。

 ――朧だった。

「――ッ、――――ッ――――ッ!」

 次第に重なり、人間の耳には及びつかない、神聖な呪文となる、ニーズへックの詠唱。そしてゆっくりと目を開くニーズへック――それと同時に。

 天地開闢にも等しき、終焉を追う爆発が、ニーズヘックを中心に巻き起こった。
 そして、それと同時に飛び出す一つの影。それはニーズヘックにも視認できないほどのスピードで、あの大樹の下へと――リリィの下へと向かう。

 朧がちょうど大樹の下へと辿り着いた瞬間――爆発が収束し、そしてぶり返した。

 圧倒的な熱量と衝撃をもったその爆発に、朧は何の迷いも無く、大樹の下に倒れているリリィへと駆け出した。
 そしてリリィに覆いかぶさり、地面を覆いつくすほどの蛇を盾にする。

 その時間、コンマ0,0003秒。世界最強がその身の全霊をもってはじき出した業だった。そしてそれを追うように爆発が二人を飲み込んで――



 目を覚ますとそこは大樹の根元だった。ハッとし、自分の身体に抱えられている少女を確認する。息はあった
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