暁 〜小説投稿サイト〜
IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜可能性の翼〜
第二章『凰鈴音』
第二十九話『台風の目の中で』
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第二アリーナ・バトルフィールド内――

修夜たちが苦戦の末に無人機を倒した頃、その片割れもまた、無残に鉄屑になっていた。
「やれやれ、豆腐や粥の方が歯ごたえがあるわ」

――――

修夜から鉄屑の原型を引き留めているあいだ、白夜は淡々と、ただその攻撃を避けていた。
ビームを打たれようと、拳を振るわれようと、近付く一瞬で避けていく。
一撃躱してひらり、二撃躱してふわり、三撃躱してゆるゆらり――。
傍から見ていれば、宙に舞う羽根と、羽根を掴もうとする者の戯れにさえ思えてくる。
そんな舞を最初から舞っていたと、錯覚するほどの流麗があった。
(やれ、そろそろ十分経つかのう)
必死に攻撃を繰り出す巨人に対し、佳麗の武人は汗一つ、息切れ一つなく、悠々と時間を計り続けていた。
すると突然、今までにないいい気な爆発音と、それに続く落下音が耳に入った。
不意に目をやると、そこには自分が戯れてる人形の片割れの、無残に負けた姿があった。
(ほう、さすがにもう数分かかると思うたが、なかなか……)
余所事に感心し、一見隙だらけなようだが、無人機の攻撃はかする気配すらもない。
「さぁて、人形よ戯れは終いじゃ。お前に引導を渡してやろう……」
聞く耳なき相手に語りかけた白夜は、舞から一転し、無人機と十メートルほど距離を開ける。
白磁のような手が、鞘に収まった大太刀に触れる。
触れたと思うと、次の瞬間には太刀は鞘から抜かれて外にあり、白夜は逆手で柄を握っていた。
それを前に出し、順手で横真一文字に構えなおす。
一人と一機の合間に、風が吹き抜ける。
抜け終わりに、無人機は肩の砲門から大出力のビームを放つ。
白夜に迫る、二本の閃光。
だが白夜は微動だにしない。

そして、ついに炸裂の瞬間――

――は、訪れなかった。

白夜のいた場所、それは【無人機の頭上】。
舞うが如く、月面宙返りのさなか。
白銀と濃紺の毛を持つ羽根は、そのままふわりと着地し、最初の構えで佇んだ。

「“渡河六文(とかろくもん)、彼岸に臨み、用も無し”」

艶やかな唇から、一句が紡がれる。
四詠桜花流(しえいおうかりゅう)外式(げしき)三途(ざんず)渡し」
佳人の一言とともに、一陣の風が吹き抜ける。
その風と共に、無人機“だった”ものはブツ切りとなり、地面に崩れ去っていった。
「“浮世の(ごう)ぞ、さらなるものを”
 まぁ、鉄の人形に逝ける冥土もありはせんか……」
佳人は独語して冷たく微笑み、独語は風に消えていった。

――――

アリーナのフェンス(ぎわ)
俺(真行寺修夜)は、ボロボロになった無人機の残骸の近くに立っていた。

《敵機、エネルギー活動の停止を確認……。今度こそ大丈夫だよ、マスター》

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