1:酒場にて
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」
意味深に言うエギルの言葉に、俺は首を傾げた。彼はその巨漢な図体に似合わず、丁寧にサラダを食みながら、
「困った事に、コイツは実に非好戦的レアモンスターらしい特殊能力を持っててな。……ホラ、ここだ」
今度は茶色い肌の太く逞しい指が紙の一端を指す。タイトルに特殊能力とある記事の欄は二つあり、一つは《不明》と記されていたものの、俺は詳細がちゃんと書かれてある方を、英訳の問題を当てられた生徒の如く音読した。
「えっと……《日に一度だけ、霧を纏って他のエリアまたは階層へワープすることが出来る》――って、ちょっと待て。他のエリアだけじゃなくて、他の階層にも? え、マジで?」
「マジだ」
モンスターには、危機が迫ると他のエリア――同じマップ内の、そう遠い距離ではない地域――にワープして逃げる者もごく一部存在するが、他の階層ともなってくると、その狩猟の手間は尋常ではない。ただでさえ希少かつ逃げ足があるのに、ようやく発見できても先にユニコーンに見つかったり、先制攻撃に失敗して数秒も隙を与えてしまえばワープしてしまうことだろう。この能力は日に一度だけという縛りがあるものの、逃げられた後再び発見するまでに、何十という広大な階層を虱潰しに再びマッピングしていく事を考えればほぼ縛りなんて無いに等しい。まさに最初のワープで逃げるまでの数秒間の勝負ということになるのだろう。
……だがしかし、だ。
「……………」
俺は結局、肝心な事が腑に落ちず、頬杖に充てていた手の上に顎を乗せ、黙り込む。
二人はそんな俺に気付かず、話を続ける。
「一時期は最後の一体は流石に未到達階層に逃げてるんじゃないかって諦めてたからな。オレでつい叫んじまうザマだ。もしこのネタが広まれば、一部の奴らはきっと爆発すんじゃないかってくらい喜ぶだろうな」
「その噂が広まる前に、速攻でこの《黒の剣士》様に狩って来てもらうっつー寸法よ! コイツの脚に勝てるヤツはまずいねーからな」
「諦めてた所で今回の吉報だが……あれだな、例えクラインの情報が真実だろうがガセだろうが、いずれ誰かの手で行われるであろう狩猟がもし失敗でもしたら、ヘタすりゃ今度こそ未到達階層に逃げるという憶測が現実になるかもな」
「はぐれ水銀もビックリの逃げ腰っぷりだよな!? カーッ、最初の不意打ちワンチャンしかねーって、突撃兵みてぇな俺達のステータスじゃムリだ! もうどうすりゃいいんだってんだよォ……って話なんだ、キリ公よォ……ってあれ……キリ、ト……?」
「……あ? どうした、キリト?」
「……………」
一瞬激昂するも、すぐさま凹むという微妙に器用なリアクションをして見せたクラインを、じっとジト目で見つめる俺。それをエギルは眉を顰めて訝しむ。
大分話
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