暁 〜小説投稿サイト〜
IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜可能性の翼〜
第二章『凰鈴音』
第二十話『夜風の非常階段にて』
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ため息を、修夜はまたつく。
「第一、アレが“不味い”っている罪悪感があったんなら、何で人の恨み買うような真似したんだ?」
語調は落ち着いているが、修夜の意思は揺らいでいない。
あくまで鈴の意図の所在確認と、それに対する反省を促すための姿勢を貫いている。
しかし鈴は、それを感じながらもふてくされた態度を崩さず、だんまりを決め込んでいる。
「【好き】なら好きって、さっさと言っちまえば――」
呆れ気味修夜が言った途端、
「だ……誰があんな……人の約束もろくに覚えない最低馬鹿のことなんか……!!」
やはりこの言い草である。
また一つ、修夜のため息カウンターが加算された。
「そんな顔赤くしながら否定されても、それじゃ“大好きです”って自白してるようなもんだろう、まったく……」
「ああああ……、赤くなんてっ!!!」
必死に弁解すればするほど、鈴の顔はますます紅潮していく。
(‘忍ぶれど 色に出にけり わが恋は’……ってか。まぁ、コイツは色に出好きだな……)
ため息カウンター、さらに追加。平兼盛(たいらのかねもり)も苦笑いである。
「そ……そう言うアンタは、どうなのよ!?」
自分ばかり責められるのは癪だと、鈴も反撃に打って出ようする。
「人に好きだ嫌いだ、ごちゃごちゃ言うんだったら、アンタは――」

「あるさ」

その回答に、鈴は思わず口をつぐんだ。
「ガキの頃の、青臭い片想いだけどな……」
そう答える修夜を見て、鈴は思わず戸惑った。
そこいるのは、自分と意地の張り合いをする皮肉屋でいけすかない馬鹿とは違う、どこか哀愁を漂わせる妙に大人びた別人だった。
同時に、その哀しげな雰囲気の別人に、思わず引き込まれるような感覚が生じた。
(何で……、何でそんなに寂しそうにするのよ……)
これまで鈴は修夜と、数え切れないほどのケンカをやってきた。相手に少しでも勝つために、下らないことでも観察してつついてきた。まったく気にくわない話だが、人より目の前の馬鹿についてはよく知っているつもりだった。
でも、この目の前にいる、独特の憂いを帯びた人間は、本当に“あの”修夜なのか。
見たことのない不思議な人間が、自分の前にいた。
「それより、お前向こうで何があったんだ?」
修夜が再び、自分のことを追求しようとしているのに気がつき、鈴は我に返った。
「な……何よ、いきなり……!」
平静を装いながらも、一瞬でもいつもの馬鹿に“カッコいい”という感覚を覚えた自分を、どうにか忘れようと試みる。
「俺と再会したあの夜、お前は『蹴落としてのし上がっていくのが普通』っていったよな……?
 少なくとも、俺が知っている中学までのお前は、そんな身勝手なヤツじゃなかった。
 むしろ、そういう連中に突っかかっていくぐらいのことをしていたはずだ」

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