プロローグ:死神
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《彼》は佇んでいる。
戦いの直後にも拘らず、己が武器を地面に尽き立て、悠然とその傍らに立っている。
その眼前に広がるのは、がしゃがしゃと耳障りな重鎧の音を忙しなく立てながら必死に敗走する戦士達。恐怖と絶望にまみれているであろうその兜の奥からは口々に『助けて』『化け物』『死神』『逃げろ』などという叫びが次から次へと吐き出されるが、要約すると結局は『何故こんなことをするのか』という言葉に行き着く。
彼はそれに無言を以って答えていたが、やがてそれらの悲鳴という名の問いかけは、森の中へ薄く木霊して消えていった。
《彼》はゆっくりと辺りを見回して、この森の路地にはもう自分以外が居ないことを確認する。
やがてそれを裏付けるように、どこからともなく微風が吹き、彼の真っ黒なマントを薙ぐ音だけが続いた。
静寂に包まれた中、彼は先程の戦士達に投げかけられた言葉を頭の中で反芻した。……すると、言葉にし難いどす黒い感情が滾々と胸の内に沸き上がってくる。……しかし、彼の顔の上半分は深く被った黒いフードに覆われ、僅かに露出した口元も強く引き結ばれている為、その湧き上がる感情にただ酔いしれているだけのか、若しくは敵を傷つけた狂喜を堪えているのか、はたまた己の力に恐怖を覚え恐れ戦いているのか……誰もそれを窺い知る事が出来ない。
やがて、彼はその胸の疼きを抑えるように、突き立てた己の武器――身の丈以上もある、恐ろしいほどに長大な大鎌を胸に抱えた。
そして……
漆黒のフードとマントを身に纏って素顔を隠し、誰もが恐れる大鎌を携えた彼――《死神》は、敗走者達に投げかけられた言葉の答えを強く心に刻んだ。
――人は、傷つき、傷つけ合う為に生きている。
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