落花流水
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ってくれと思うことが少なからず多くなってきた気がする。
額と額を突き合わせるように詰め寄る左近にいつも湛えている微笑はそこにはなかった。
「何でだよっ?!理由を言えっ、理由をっ」
「…………私が死す時…………それはっ、新たな華衣が現われた時……」
また眉間にシワを寄せて今にも唸り声を上げそうな表情に僅かに頬を緩ます。
右近に支えられながら双子たちの髪を優しく梳く指は色素が薄いためか余計に儚く見える。
その姿はまだ華宵殿の中で過ごしたある日を思い出させた。
「君達にまた出逢う事が出来て……本当に幸せでした」
「だからっ!」
「いいから聞いてやれよっ!」
「右近…」
一向に進まない会話にまた迸りそうになった怒りは小火の内に水を掛けられてしまった火種のように情けなく胸中で燻り、余程兄に叱られたのが堪えたのか焼け焦げた箇所を残したままその姿は白い煙と共に天井に溶けていった。
滅多に感情を露わにしない片割れに蛇に睨まれた蛙の心地で喉元に出掛かっていた言葉を生唾と一緒に飲み下す。
自分はどこを間違ってしまったのだろう、視線を避けるようにまた開け放ったままの雨戸に振り返り夜空を仰ぎ見る。
その先には銀の瞳と同じ色をした月が冷たく微笑んでいた。
いつの世も変わらず地上を巡るその輝きは遥か遠い記憶にも劣らず美しい。
その姿を見ているだけでこの胸のモヤモヤがすぅと晴れ、素直になれそうな気にさせてくれる。
「今宵の月は何ですか?」
「ん?あ、あぁ……あれは見事な望月…………いや、あれは十六夜だな」
唐突にそう問われ、我を忘れて見入っていたことに些か驚きながら昨夜眺めたものを思い浮かべて答える口元は久々に笑みで緩んでいた。
見方と時期などの関係でその色も形もコロコロと変わるが空を見上げれば静かに見守るかのようにいる月が好きだと、言っても嫌いだと言う人間をこれまで生きてきて聞いたことも無ければ遭った事もない。
特に二人が生まれ育った日本には愛でる文化が強く、遥か昔は異端と見なされていた髪などの色を合わせ、ぼおっと眺めたり詩や短歌などの会に忍び込んだりした。
現代より規制はかなりあったが力も使えるし護るべき華衣もいたし何よりお互いが常に支え合っていたから辛くも寂しくも無かったが、稀にこうして羽目を外しすぎて逆鱗に触れてしまった時は声を掛けるのさえ憚られ独りぼっちで深海に投げ出された気に襲われる。
同時に思考回路は停止し、普段流れ込んでくるはずの右近の心は遮断され元から乏しいあの表情だ、外見からそれを
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