落花流水
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から辺りに敵がいないか確認したみたいだった。…………
「…………左近。夜風は体を冷やす」
「解ってるさっ!でもっ、このままじゃ雄黄はっ」
そう呼ばれた青年は眉間にありったけのシワを寄せ、何かを堪えるかのように歯を強く噛んだ。
彼の背中から諭すように語り掛ける声は同じ質を持っているのか今は荒げているが所々類似している。
荒い呼吸と誰かが背中を擦る音が室内を巡り、単調な曲が三人の心を哀愁で満たしていく。
もう時間は…………ない。
ふと過ぎる恐れと絶望が形を為しそれぞれの胸を締め付けていく。
まだ咳き込んではいたが先程より大分落ち着いたのか、弱々しくも礼を一つ口にすると少し遅れて背中を摩る音も止んだ。
雨戸の側で蹲ったまま動かない銀髪の彼を呼ぶ。
「……左近。こちらに来てください」
「誰が聞くもんかっ!」
「…………左近」
「右近だってそうだろっ。また俺たちを置き去りにしてテメー一人でイッちまいやがる。そんなの………………勝手だっ」
突発的に顔を上げた所為だろう、頭を左右に強く振っただけで目の端にいっぱい溜まった涙がその磁器のような白い肌に一筋伝う。
彼の背後に広がる四畳一間の世界には今まで横になっていたであろう布団から上半身だけを起こしてこちらを見ている寝巻き姿の青年とその脇で左近と同じ顔のと、言ってもこちらは髪も眉も瞳の色さえ金を宿した青年が重たげな口をより一層強め三人の間にまた静けさが広がっていた。
幼子のように力任せに着物の袖で目元を拭う左近の優しさは数多な時を共にしてきた二人には解っていた。
また自分たちを残してイってしまう雄黄。
それを見送らねばならないこと…。
あんなに一緒だったのに、それに終わりが来ることを知っていたのに、気付かないフリをしていた。
この事実を本人に告げられた時気が動転して尊ぶべき彼の胸ぐらを掴んでいた。
普段顔色を変えない唯一の肉親であり対の右近ならばどう思うだろう。
無愛想に拍車を掛けるのがその重たげな口だ、華宵殿に来た客にもその態度は変わることなく中には物好きにもファンがいたりするがそれはほんの一部で、大体は『怖い人』と思われているだろう。
少なからず他人からそんな風に思われているらしいと言うことは知っていて、顔には出さないが結構キズついていることを左近は理解している。
尤もそれは右近にも同じことが言えるのだがこの場では敢えて伏せておこう。
拒絶している自分とは違いその
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