二十二 無明の闇
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た円環まで伸びている罅。割れ目が生じた石畳はまるで星空のようだ。翡翠の輝きを帯びた石屑があちこちに散らばっている。
これほどの衝撃をその身に受けたにも拘らず平然とする神農を香燐は睨みつけた。
【神楽心眼】で神農の秘密を探ろうと瞳を鋭く細める。彼の身体から醸し出される異常なチャクラを視た香燐は、ハッと息を呑んだ。
神農の背後で、顔がぼうっと空に浮かんでいる。血の気の引いた白い顔。
ゾクリと背筋を凍らせた香燐は頭を振った。ただの仮面をなぜ顔と見間違えたのだろうか。
額に『零』という字が施された生白いお面。しゃらりと揺れる五本の飾り紐に、眦と唇に引かれた紅が白面上一際目立つ。顔面に施された両眼は眼と言っても窪みすらない糸目だ。
笑っているのか怒っているのか泣いているのか。判然とせぬ面相であった。
香燐の瞳が、お面の双眸を捉える。一瞬、目が合った気がした。ずしんと何かが全身に重く圧し掛かる。
途端、彼女の視界は闇に閉ざされた。何も見えない黒闇の中で、方々から囁き声が聞こえてくる。
〈 熱い熱い 焼ける 燃える 痛い 苦しい 助けて 嫌だ死にたくない 熱い熱い……… 〉
香燐はうろたえ、辺りを見渡した。誰もいない。ただあまりにも深くそして広大な闇が広がるばかり。だが四方八方から聞こえてくるさざめきには、耳慣れた声をも孕んでいた。故郷たる村の住人、中忍試験を共に受けた仲間、友人……そして家族。
突然、ぽっと火が出現した。小さな灯火はあっという間に火の海となり、香燐の眼前で激しく燃え盛る。映像のように、目まぐるしく展開する火災の情景。火事に見舞われているのは紛れも無く、自分が生まれ育った村だった。
〈 熱い熱い 焼ける 燃える 痛い 苦しい 助けて 嫌だ死にたくない 熱い熱い……… 〉
今にも消え入りそうだった微かな声が次第に大きく膨れ上がる。まるで耳元で囁かれているかのような錯覚に陥った。
実際に故郷の焼失場面を見てもいないのに、あたかもその場にいるかのような光景が香燐の眼の中に飛び込んでくる。炎に身を焼かれた誰かが助けを求めるように手を伸ばした。宙を彷徨い、そして力尽きたその一場面が、香燐の脳裏に色濃く焼きつく。
〈 熱い熱い 焼ける 燃える 痛い 苦しい 助けて 嫌だ死にたくない 熱い熱い……… 〉
「やめろ!!」
堪らず香燐は叫んだ。耳を塞ぎ瞑目した姿勢のまま、その場に蹲る。絶叫は闇の中で反響し、彼女の身を包み込んだ。
香燐自身、故郷が戦火に捲き込まれたという知らせを聞いたに過ぎない。故に村の焼尽が確かに起きたのかも正直なところ解らない。だから今現在映し出される眼前の映像は、彼女自身が生んだ根拠の無い想像に他ならないのだ。
しかしながら闇は彼女の神経を執拗に責め立てる。奥底に仕舞
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